捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
キャンプのはずが異世界へ
私は麻生希、十九歳。この春、大学生になったばかりだ。
父は厚生省の官僚、母は高校教師というお堅い職業に就いている。二人とも職業柄か超がつくほど真面目で教育熱心。躾にもとても厳しい。いわゆる過干渉気味な両親だった。
お陰で、幼少の頃より知育玩具に囲まれ、テレビもニュースか教育番組しか観たことがない。
両親の言葉に従い、これまで一度も羽目をはずすこともなく、大人しく勉強漬けの毎日を送ってきた。
唯一の楽しみといえば本を読むことぐらいだ。
絵本や童話にはじまり、実に様々な本を読んできた。
そのなかでもファンタジー小説が特に好きだ。
現実では両親の目があり自由に過ごせる時間なんてなかったけれど、物語を読んでいる間だけは、現実を忘れて主人公になりきることができた。
そんな少々普通とは違う家庭環境で育った私だけれど、同じくこの春、超難関の国立大を卒業し、一流企業に就職したばかりの優秀な兄には劣るが、名門私立大学に見事合格。
これからは本だけじゃなく、遊びに恋に、大学生活をエンジョイするんだ。そう意気込んでいた。
そんなわけで大学デビューを果たした私は、ゴールデンウィーク真っ只中。幼稚園からの友人である松山未来と一緒に入ったテニスサークル主催のキャンプに参加するため、富士山麓にあるキャンプ場へと赴いている。
「わ〜! 空気キレーだし、眺めも最高〜! 希、来てよかったね〜!」
「うん! ホント最高だね!」
因みに、長い付き合いの未来のお陰で両親が普通とは少し違っていることも知ったし、勉強以外の知識を得ることもできた。
私にとって未来は唯一無二の親友だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、バーベキューも終えて、コーヒー片手に夜空一面に広がる満天の星空を眺めていた。
そこに歩み寄ってきた、サークルの勧誘の際一目惚れして以来片想い中の野々宮先輩から、
『星空が綺麗な穴場があるんだけど、良かったら行ってみない?』
なんて誘われた私のテンションも鼓動の高鳴りも最高潮に達していた。
ーーど、どうしよう。人生初の告白? とうとうモテ期到来ですか?
未来にニヤニヤしながら「頑張れ」と送り出され、私はドキドキしながら星空が綺麗な穴場へと誘導してくれる先輩の広い背中を拝みつつ足を進めていた。とそのとき。
「希ちゃんってさぁ、彼氏いないって言ってたよね?」
不意に振り返ってきた先輩の言葉に、いよいよ告白かと、緊張の余りその場で立ち止まり、ゴクリと喉を鳴らしたと同時。
大きな地鳴りのような物凄い轟音が轟き、足下がぐらぐらと大きく揺れ始め。
ーーじ、地震だ。
直感的にそう思ったのだが怖くて身体がすくんでしまう。両手で頭を抱え込んだままその場にうずくまることしかできないでいた。
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