捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
狼王子と甘く蕩ける初夜を ⑴

 ついさっきまであんなに複雑な心境だったはずなのに……。

 クリスとこうして甘いキスを交わしていると、何もかもが取るに足らないちっぽけなことのような気がしてくるから不思議だ。

 甘やかで熱いキスを交わしているうち、吐息が弾み、深まるキスに思考は蕩け、身体からはくたりと力が抜けてゆく。

 カクンと膝が折れた私の身体をクリスがしっかりと逞しい腕で抱き寄せ支えてくれている。

 いつしか私はクリスの広くてあたたかな胸へと、なにもかもすべてを委ねるようにしてしなだれかかっていた。

 ーーあぁ、幸せだなぁ。幸せすぎて、今にも蕩けてしまいそう。

 クリスとの甘美なキスに酔いしれているうち、身も心もすっかり新婚モードに切り変わった頃、不意にクリスの唇が離れてしまい、互いの唇を銀糸が繋ぐ。

 艶めかしくしっとりと濡れた唇から、クリスの滾るような熱情がフッと消え去り、無性に寂しさを覚えた。

 そこにクスッと笑みを零したクリスから、いつもの甘やかな声音で不意打ちのように問い掛けられ。

「そんな泣きそうな顔して、僕と離れるのがそんなに嫌なのかい? ノゾミ」
「うん、嫌。クリスとずっとずっとくっついていたい。片時も離れていたくない」

 私は間髪入れずに即答し、クリスの胸にギュッとしがみついていた。

 クリスは私のことを愛おしそうに、慈愛に満ちた眼差しで見遣ると、再び嬉しそうに笑みを零し、私のおでこに自身の額をコツンとくっつけてくる。

「嬉しいなぁ。僕もだよ。でも、安心して。場所を移動するだけだから。だからね? ノゾミ。少しだけ我慢してくれる?」

 そうしてやっぱり甘やかな声音で優しく囁きかけてくれる。

 クリスの蕩けるような甘やかな微笑に魅了され、さっきのキスで蕩けた頭には、すべての言葉など入ってはこない。

 私は脊髄反射のごとく無意識にコクンと顎を引いていた。

 その次の瞬間。身体が突然ふわりと浮遊しており、クリスに横抱きにされたのだと頭が理解した時には、天蓋付きのふかふかのベッドの上へと横たえられていた。

 一瞬の出来事に、目を瞬いた先には……。

 幼い頃によく読んでいた絵本に出てきていたのと、よく似た光景が広がっている、

 お姫様が使うような天蓋付きのベッドだけじゃなく、教科書や美術館などで目にするような、凝った彫刻が施された柱にはじまり、なんとも豪華で気品溢れる広い部屋に、芸術品のようなアンティーク調の家具が取りそろえられていた。

 高い天井に吊られたシャンデリアには、明るすぎず暗すぎず、柔らかな明かりが灯されている。

 勿論、これまでも何度か訪れたことはあった。

 けれど、それは大抵昼間だったし、婚礼の儀が終わるまではお互い準備に追われていたため、こうしてふたりきりで過ごすのは、あの王都での夜以来、三ヶ月ぶりだ。

 さっきまでクリスと正式に夫婦となって初めて過ごす特別な夜だと思うと妙に気恥ずかしかったはずが……。

 なんだか夢の中にいるような、そんな不思議な錯覚を覚えてしまう。

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