捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
異世界に召喚されたのも、こうしてクリスと一緒にいるのも、すべてが夢であるかのよう。
途端に不安になってくる。
ーーお願い。どうか夢なんかじゃありませんように。
縋るような気持ちで、今まさに私のことを組み敷こうとしていたクリスの夜着をギュッと掴んでしまっていた。
「ノゾミ? どうしたの?」
「幸せすぎてなんだか夢みたいで、凄く怖いの」
一瞬、面食らったように動きを止めたクリスが私のことをふわりと包み込むようにして抱きしめてくると。
「大丈夫だよ、ノゾミ。僕が絶対に夢になんてさせない。ノゾミがそんな風に思えないくらいたっぷりと愛してあげる。余裕なんて与えてあげるつもりもないから覚悟してね。ノゾミ」
しっかりとした口調でキッパリと宣言してくれる。
最後には、時折見せる悪戯っぽい微笑と口調とをお見舞いしてきて、にっこりと甘やかな極上の微笑を満面に綻ばせる。
そのなんとも蠱惑的なクリスの微笑に魅入られてしまった私は、再開されたクリスとの甘美なキスにしだいに酔いしれていった。
そうして気づいた時には、クリスによって夜着は寛げられ、この日のために夜着とセットで仕立ててもらった、薄桃色の『天使の羽衣』だけを纏ったあられもない姿をクリスに披露してしまっている。
その様をクリスは熱を宿した蒼く澄んだ瞳でマジマジと見下ろしてくるから、恥ずかしくて堪らない。
「これがノゾミが考案した『天使の羽衣』なんだね。ノゾミと同じでとっても可憐で愛らしいねぇ。見ているだけで堪らない気持ちになってしまうよ」
そこにうっとりと恍惚な表情を浮かべたクリスがなんとも悩ましげな声音を零した、かと思った時には、人の姿ではなく、狼の獣人の姿へと変貌を遂げていた。
クリスと甘やかな初夜に身を投じる前に、手短に説明しておこうと思う。
どうやらクリスは、興奮したり、怒ったりというように、感情が高ぶると自我をコントロールできなくなって、狼獣人の姿になってしまうようだった。
家族の話によれば、幼い時分や思春期の多感な頃には、よくそうなっていたらしいが、大人になってからは他人に心を閉ざしていたせいか、そういうこともなくなっていたようだ。
そういう意味でも、クリスにとって私は特別な存在であるらしい。
そんなことからも、家族だけでなく周囲の目に私は、『さすがは聖女様』という風に特別な存在として映っているらしい。
聞けばその昔、狼を神として崇めていた名残なのだと、国王夫婦はどこか誇らしげに仰っていた。
王都で互いの気持ちを確かめあった初めてのあの夜同様、本人には、その自覚はないようで、行為は中断されることなく粛々と続いてゆく。
こうして、もう見慣れてしまった気高く美しい狼獣人となったクリスとの行為に、私はしだいと溺れていったのだった。