捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
やがて余裕をなくした私がクリス自身に満たしてもらおうと乞えば、それに対して返ってきたクリスの言葉に私は大きな衝撃を受けることになる。
「あぁ、ノゾミ。僕だけのノゾミ。わかったよ、すぐに満たしてあげるからね。でも、安心して、さっきは子作りとか言ったけど、まだしばらくはノゾミのことを独り占めしたいから、ちゃんと子種が根付かないようにしておくからね。だから安心して僕のすべてを受け入れて欲しい」
何故かというとーー。
別にクリスのことを疑っていた訳ではないが、心のどこかで、クリスは王族だから、自分の後継者となる子供さえ産んでくれたら誰でも良かったんじゃないか。その相手が探し求めていた聖女だっただけで、私じゃなくても良かったんじゃないか。そう思ってしまっていたらしい。
その証拠に、クリスのこの言葉を耳にした瞬間、心底嬉しかった。
私の眦からは、愉悦のせいで滲んでいたものとは違った、新たな雫がとめどなく溢れてくる。
それを目にしたクリスがギョッとしたような表情で私のことを見遣ってきてすぐ、慌てふためいた様子で私のことを抱き起こし案じてくれる。
「ノゾミッ、ごめん。どこが痛むの? 大丈夫? 僕のせいで泣かせたりしてごめんね」
見るからにシュンとしたクリスにはケモ耳だってあるので、大きなワンコそのものだ。
ーーあぁ、もう、クリスってば可愛い。
なんてことを思いながらも、身体はもう限界だと訴えかけてくる。
一刻も早くクリスを安心させようと、必死に訥々と声を紡ぎ出す。
「うれし……涙……だから。それより……早くぅ。お願いっ」
「そうだったね。僕ももう限界だから、すぐに満たしてあげるね」
すぐに私に余裕がないことを察してくれたらしいクリスとの甘い夜は再開されて。
ふわふわとした雲の上でも浮遊しているような幸福感に包まれて、天にも昇る心地だ。
この世で一番大事な人であるクリスと深く深く繋がりあい、溶けあい交じりあう。
夫婦となったこの夜。言葉通りひとつになることができた私とクリスは、その天国にでもいるような幸せな心地のなかで、いつまでもいつまでも、離れることなく、互いの身体をしっかりと抱きしめあったままでいた。
これから何があろうと離れはしない。というように。
クリスとずっとずっと夫婦として共に生きてゆく。
この命が尽きるその瞬間まで、この幸せを一緒に護り続ける。絶対にーー。
意識を手放す狭間、クリスの逞しい腕に抱かれながら私はそう心に誓っていたのだった。