捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
『……ただの傷じゃないって、どういうことですか?』
思わず聞きかえした私のことをいつもの優しい眼差しで見遣ってから。
『……昔、ゴブリンに呪いをかけられた人を見たことがあったのですが、その時の傷によく似ている気がしただけですじゃ。といっても、わしも、この通りもうろくしとりますのでなぁ、自信はないのですじゃ』
その当時のことを思い返してでもいるのだろうか。
どこか懐かしむように窓の外へ視線を向けてそう言うと、はははと笑って、狼の傷に薬草をすり潰したものを塗りつけてから、手慣れた手つきで端切れを包帯のように巻いていく。
『……そんなに案じなくとも、これくらいのことで死んだりするようでは、自然界では生き抜いていけませんからなぁ。それに、精霊の森では、野生動物の中では頂点に君臨する生き物です。すぐに元気に駆け回るようになるはずですじゃ』
ゴブリンの呪いなんていう言葉に、得体のしれない恐怖心を抱いてしまい、きっと泣きそうな顔でもしていたのだろう。
そんな私を安心させようとルーカスさんがかけてくれた言葉通り、狼の子供の傷は少しずつ少しずつ日ごとに癒えていった。
はじめはなんの反応も示さず、目を開けることも唸ることもなく、ぐったりとしていたので案じたが。
翌日には、目も開け、サファイヤブルーの円で綺麗な瞳をウルウルさせて、私に甘えるようにして擦り寄ってきて、少しも離れようとしなかった。
それが可愛らしくて、膝に乗せると、そのまま力尽きたように何時間も眠りこけていた。
それから徐々に回復し、動けるようになってからも、助けたからだろうか、私に酷く懐いていて、今では私の寝床でないと寝付かないほどだ。
聖女の私に備わっていた治癒魔法をどうやったらかけられるかは、依然としてさっぱりわからない。
だが、どうやら一緒にいるだけで効果はあるらしい。
ーーあの、まことしやかな例の言い伝えも、本当なのかもしれない。
そう思うと、また暗い心持ちになりそうだったが、可愛い狼の子供のお陰で、それもしだいと薄れていった。
あれから一週間が経過した今では、『レオン』と名付けた狼の子供を巡って、私とピクシーの間では、取り合いっこをするようになっている。
「もう、レオンったら擽った~い」
「あー、ノゾミばっかりズルイ~。僕も抱っこしたーい」
「やだぁ。二人ともそんな毛むくじゃらのどこがいいわけ? いくらケガしてるからって、寝床に入れるなんて信じらんない」
「え~。フェアリーこそ信じらんない。毛並みも綺麗でモフモフしてて気持ちいいし、こんなに可愛いのに~」
「そうだよ、そうだよ。こんなに可愛いのに~。フェアリーってば冷たすぎ~」
「悪かったわね、フンッ。まったく、どこがいいんだか」
そんな私たちのことを獣嫌いのフェアリーが冷ややかな眼差しで眺めながら、ツンとした口調で辛辣な台詞を放つのがお決まりとなっていた。