捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
奇妙な夢
狼の子供ーーレオンが来てからと言うもの……。
ただでさえ小妖精のフェアリーとピクシーのお陰で陽気だったルーカスさんの家は、ますます賑やかになった。
それに一月もすれば、治癒魔法の効果で、もうすっかり傷も癒えてきて。
夜の帳が降りて寝付く時間になった頃には、狼の血が騒ぐのか、一丁前に遠吠えしたりする。
元気になってきて力が有り余ってでもいるのだろうか。
昼間になると、家の出入り口の扉を前足の爪でガリガリ引っ掻くようになった。
それらは、外に行きたいから『ここを開けてくれ』のサイン。
私かルーカスさん、もしくは力持ちのピクシーが気づいて開けてやると、一目散に外へと飛び出していく。
そうして、まだまだ子供で遊びたい盛りなのだろうレオンは、飽きるか疲れるまで、外で元気に駆け回れるまでになっている。
元気に駆け回るレオンを尻目に、私たちはそれぞれの仕事に勤しんでいた。
時折、遊び疲れたレオンがすっかり懐いてしまった私の足下に頭や身体を擦り寄せて甘えてくる。
きっと、はぐれてしまった母親の代わりにでもしているのだろう。
そうとは思いつつも、そうやって暇さえあれば甘えてくるレオンのことが可愛くてどうしようもなかった。
異世界に召喚されてから二月余りが経って、こちらの暮らしにもずいぶん慣れてきたとはいえ、まだまだ不慣れなことばかり。
ルーカスさんもフェアリーもピクシーも良くしてくれていても、やっぱり育ってきた環境も風習も何もかもが違う。
ふとしたとき、例えば眠りにつく前などに、ふとホームシックのようになって、心細さに押し潰されそうになってしまう。
そんな心情をあたかも感じ取ってでもいるように。
私と寝床を共にしているレオンが寂しそうに、『クゥン……クゥン……』と鳴きながら甘えるようにスリスリと擦り寄ってくる。
そうしてあたかも私のことを慰めるようにして、顔中ペロペロと舐め回すのだった。
それがどうにも擽ったくて、いつしか私は『キャハハ』と笑い転げてレオンとじゃれ合っているうち、心細いなんて考えるようなことも次第と減ってきたように思う。