捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
そういえば、元いた世界には、人の心を癒やしてくれるセラピー犬なんかもいたっけ。
私にとってレオンはセラピー犬かもしれない。
とはいえ、野生の狼であるレオンとこのままずっと一緒に暮らすことなんてできないだろう。
数ヶ月先か、はたまた数日先かはわからないが、お別れの時が来るまで、こうして一緒に過ごせる時間を大事にしなくちゃ。
近頃の私は、心の中でそう何度も自分自身に言い聞かせつつ、レオンのもふもふした身体をぎゅうと抱き寄せて眠りについていた。
だからだろうか。
レオンの傷が癒えてきた頃から、私は毎晩のように妙な夢を見るようになった。
別に夢の中にレオンが出てくるわけではない。
ただレオンとの別れを惜しむ気持ちがそうさせるのだろう。
その夢には、ここに来る以前の現実世界で片想い中だった、野々宮先輩が登場する。
けれどただ登場するわけではなかった。
どうしてかは知らないが、夢の中で野々宮先輩に抱かれている、というなんともはしたない夢だった。
これまでずっと勉強漬けだった私には、そういう経験なんてあるはずもない。
それなのに妙にリアルというか、生々しいというか。
実際に体験でもしているかのような錯覚に陥ってしまうというか。
兎に角、毎回、そんな妙な感覚を覚えて、吃驚して飛び起きてしまうということを繰り返していた。
けれどそこには当然だが野々宮先輩はいない。
一緒に眠っているレオンがいるだけだ。
その都度、気持ちよさげに穏やかな寝息を立てて眠る無垢なレオンの姿を前に、そんな夢を見てしまう自分のことが酷く穢らわしく思えてならなかった。
ーーもしかして欲求不満なのかな。
それとも、野々宮先輩に告白されるかもなんて期待していたところで、異世界になんて来てしまったせいで、それが叶わなかったことへの悔しさの表れなのだろうか。
いずれにせよ、誰にも相談なんてできないことなので、人知れず悶々とするばかりだった。