捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
悶々とする日々のなかで
毎晩のようにあの妙な夢を見て驚いて目を覚ますということを繰り返している所為か、ここのところ少々寝不足気味だった。
夢のリアルさに驚いて目を覚ましてからは、目が冴えてしまいどうにも寝付けないせいだ。
仕方ないので、寝こけているレオンのもふもふした身体をぎゅうと抱きしめて、心地いい鼓動の音とあたたかな体温とを感じつつボーッとしているうちに、いつしか朝を迎えていた。
そうしていると、やっぱり心は不思議と落ち着いた。
けれども睡眠時間は補えはしないので、寝不足は解消されないでいた。
この日も朝から寝不足で、頭がふわふわしていて、いつにも増して悶々としていたように思う。
ルーカスさんの家には時計がないので、正確な時間はわからないが、日が傾きかけたからおそらく午後五時を回ったところだろうか。
精霊の森には、夜になると活発に行動する邪妖精が棲み着いている。
なので、その頃には仕事を切り上げて、夕飯の準備に取りかかる。
今日もいつものように台所でフェアリーと一緒に夕飯の準備をしているところだ。
元いた現実世界の我が家のシステムキッチンとは違い、オーブンレンジやIHクッキングヒーターなどの電気調理器具なんていう便利なものは存在しない。
けれども魔法という便利なものがあるので、特段不便を感じるようなこともなかった。
勿論、私ではなく、ルーカスさんや小妖精であるフェアリーのお陰だ。
どうしてピクシーが入っていないのかというと、ピクシーはお風呂係だからだ。
家の裏手にある小さな浴場をしっかりと管理してくれているピクシーは、とても綺麗好きでいつもピカピカだった。
きっと今頃は、自分で割った薪をくべて鼻歌でも歌いながら、大好きな絵本でも読んでいるのだろう。
といっても、ピクシーは読み書きができないから、魔法を使って。
だったら魔法を使えば仕事なんてしなくていいだろうと思うだろうが、そうできない理由があった。
驚くことに、このマッカローン王国にいる妖精や邪妖精たちは、夜しか魔法が使えないらしいのだ。
どうしてかというと、その昔、このマッカローン王国をおさめていた偉大な国王によって、悪事を働く邪妖精の力を封じるために呪いがかけられているかららしい。
私を召喚した例の我が儘王太子とは違い、祖先である国王は凄い人だったようだ。
寝不足のせいでボーッとしながら、そんなことを思い返していたら、突然意識にフェアリーの声が割り込んできた。
「ノゾミン。スープが煮えたぎってる。そんなに煮立ててたら煮詰まっちゃうでしょう?」