捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
どこか夢見心地で思考に耽っている私の耳元に先輩の声音ではない、他の男性の声音が流れ込んできた。
先輩の声よりも甘やかでとても耳に心地いい声音。
『ノゾミは、やっぱりこの男のことが好きなの?』
けれどその声音には、聞いているだけで心をキュッと締め付けられるような、そんな切なさを孕んでいた。
慌てて視線をその声に向けると、野々宮先輩だったはずの顔が、レオンのそれと入れ替わっていて。
『ーーッ?』
私が驚きの余り言葉を失っていると。
『今はそれでも構わないよ。けれど、いつか絶対に振り向かせてみせるから』
レオンがそう言って声を紡いでいる合間にもその顔は徐々に人の形を帯びてゆく。
そうしていつしか野々宮先輩の姿へと変化していた。
けれど茶髪だったはずの先輩の髪は、アッシュグレーの少しクセのあるロングヘヤになっていて、後ろで一つに結わえられている。
ダークブラウンだったはずの切れ長の双眸も、宝石のように煌めくサファイヤブルーの瞳へと変貌を遂げていた。
現実世界から異世界に召喚された際にお目にかかった我儘王太子を彷彿とさせる、王子様然とした姿に驚きを隠せずに、声を漏らすと。
『……せ、先輩?』
その声を耳にした途端、先輩の綺麗な顔が苦しげに歪んでしまう。
その様子に私の胸がまたもやキュウッと締め付けられる。
とその時、先輩の腕に強い力で抱きすくめられていた。
『今はそれでいい。けれど、いつかきっと、ノゾミの身も心もすべてを僕だけのものにするからね』
『え? どういうーーんっ』
そうして続けざまに紡ぎ出された言葉に聞きかえそうとした私の言葉は、王子様と化した先輩によって、唇を塞がれることによって奪われていた。
それからは、もう、息をつく間も与えてもらえないほどに、甘美な激しいキスで身も心もとろとろに蕩かされてしまう。
『……あっ』
僅かに開いた唇の隙間からは、自分のものとは思えないくらい、甘く淫らな声を漏し。
気づいた時には、王子様然とした先輩のすべてを受け入れていた。
途端に、痛さよりも、この世のものとは思えないほどに甘やかな痺れに私の身体は狂ったように身悶え、いつしか意識を手放してしまったようだった。
その間際、
『ノゾミ、愛してるよ』
私の名前と愛の言葉を紡ぎ出す切なげな声音が、まるで呪縛のように、幾度も幾度も繰り返されていたような気がするけれど、とても曖昧だ。