捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
眠りに墜ちる狭間で
驚くことに次に目を覚ましたのは、転た寝する前に突っ伏していた丸テーブルではなく、すぐ傍にあるベッドの上だった。
しかも毎朝目覚めるとき同様、胸にはしっかりとレオンのことを抱きしめている。
ーーあれ、私、いつの間にベッドに? それに、なんでレオンまで。
寝ぼけ眼をパチパチしていると、抱きしめているレオンが目を覚まし、綺麗なサファイヤブルーの瞳と視線が絡まった。
その瞬間、さっきまで見ていた夢の中の先輩と瓜二つの王子様の姿とがレオンの姿とシンクロする。
そういえば、王子様のアッシュグレーの髪の色とレオンの毛色って同じかも。
それに、煌めく宝石のように綺麗な瞳の色も同じだ。
よく見ると、レオンって狼だけあって、凜々しい顔つきしてるし。
きっと狼の中ではイケメンの部類に入るんだろうなぁ。
未だ夢現でぼんやりとレオンの顔を眺めていると、不意にレオンがあたかもキスでもするようにして唇にそうっと触れてきた。
否、私にはそう見えただけで、ただクンクン匂いを嗅いでいて、ちょこんとぶつかっただけだったのかもしれない。
それなのに……ドクドクと胸の鼓動が高鳴ってしまう。
そんな私の耳に、レオンが甘えてくるときに出す「クゥン……クゥン」という鳴き声が流れ込んでくる。
途端に胸がきゅうんと切ない音色を奏でた。
それと同じくして、意思とは関係なく、どういうわけか下腹部がキュンと疼く。
得体の知れない感覚に途轍もない羞恥心が沸き起こってくる。
数日前に、フェアリーに言われた言葉が脳裏を掠めた。
『いくら欲求不満だからって、寝床をともにしているレオンに欲情したらダメよ? 人狼が生まれちゃうから』
ーー今のって、もしかしなくても、レオンに欲情したってことだよね。
「ウソッ!? ヤダーーッ!」
言いようのない羞恥を覚えハッとした私は、動揺する余り抱え込んでいたレオンのことを突き放していた。
幸いにも寝起きで思ったほど力が入っていなかったようで、レオンはベッドからは落ちずに済んだ。
けれど、寝起きでいきなり突き飛ばされ、驚いたのだろう。
布団のうえで怯えたように身体を縮こめ丸くなってしまっている。
慌てた私が抱き上げると、いつもはピンと綺麗に立っているはずの耳もしょげたように寝かせてしまっている。
怒って噛んでもよさそうなのに、そうしないのは、それだけレオンが私に懐いてくれている所以だろう。
それなのに、勝手に見た夢に出てきた先輩とそっくりな王子様の姿がちょっとレオンとダブってしまったからって、レオンのことを突き放すなんてあんまりな行動だ。