捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
「隣国のモンターニャ王国からこの国に来るには、精霊の森を抜けるのが一番の近道なんだよ。でも邪妖精や魔物が棲まうだろう。だから狼に変身して抜けようとしたんだ。そこでゴブリンに遭遇したんだよ」
『隣国の旅人』というのも言いにくいので、レオンと呼ぶことにする。
なんでもレオンは、隣国の商人であるらしく、珍しい骨董品を買い付けるためにこの国に来る途中、人間嫌いの魔物らに見つからないように狼の子供の姿に『変身魔法』とやらで化けていたらしい。
その道中、運悪く遭遇したゴブリンに変身魔法が解けないように呪いの呪文をかけられたのだという。
そして驚くことに、その呪いをかけられたら最後。解く術はなく傷が全身に及んで死に至るんだそうだ。
それに関しては、私が聖女として召喚された際に備わっていたという驚異的な能力が絶大な力を発揮したようだった。
もう一つ驚いたのは、レオンは呪いをかけられたあと頭を強く打っていたようで、すべてではないが、所々記憶が抜け落ちてしまっているらしい。
なので、自分が商人で、この国に骨董品を求めて訪れていた以外の記憶を失ってしまっているというのだ。
「え? じゃあ、名前も思い出せないんですか?」
さぞかし心細いだろうと思って思わずかけた言葉に、
「……うん。でも、悪いことばかりじゃないよ。こうしてノゾミのようなとても可憐で愛らしい聖女様に巡り会えたんだからねぇ」
レオンは、大したことでもないというように爽やかな微笑みを浮かべて、なんとも甘やかな声音で歯の浮くような台詞を吐く。
なんだか、淫夢からそのまま飛び出してきたようなレオンの風貌や物言いに私の心はザワザワとして、ちっとも落ち着かなかった。
そんな私の様子をやけに静かに見守っていたフェアリーとピクシーが、とんでもないことを言い放つ。
「あらあらノゾミンったら、真っ赤になっちゃって。狼のレオンのときとは違ってぽーっとしちゃってるし。もしかして、人間の姿のレオンに一目惚れでもしちゃったのかしら」
「あっ、ホントだ~! ノゾミ、真っ赤になってる~!」
「そうなの? だったら光栄だなぁ」
「////ーーち、違うからッ! 布団に潜り込んでたせいなんだってば~!」
「これこれ、フェアリーにピクシー。二人の邪魔になるじゃろうが。こういうときは気を利かすもんじゃ」
おかげで、ルーカスさんまでが余計なお節介発言を繰り出してきて、私は羞恥に塗れながら言い訳を繰り返す羽目になったのだった。
どうして突然呪いが解けて人の姿に戻れたのかなど少々謎めいた部分はあれど……。
こうしてルーカスさんの家に居候中の身である私の他に、人間の姿であるレオンが加わることとなったのである。