捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
話が途切れることはなく、気づけば夢中で話し込んでしまっていたりする。
そんな有様だったのでレオンにしてみれば、私が心を許しているように見えたのかもしれない。
一緒に仕事するようになって数日もすれば、初対面でお見舞いしてきた、歯の浮くような甘い台詞を隙あらば繰り出してくるようになった。
「ねぇ、ノゾミ、見て見て。この花、ピンク色なところなんか、可憐で愛らしいノゾミによく似ていると思わない?」
「////ーーちょっ! な、何言ってんのレオンったら、サボってないで仕事しなきゃダメでしょ!」
「うん、わかってるよ。でも、ちょっとだけ待って」
「////……え? なっ、何よ? いきなり」
「少しだけ、じっとしてて」
「////ーーッ!?」
「ほら、やっぱり。思った通りだ。ノゾミの雰囲気にピッタリでよく似合っているよ」
薬草探しの合間には、可憐な花を見つけては、私のようだなんだと言ってきて、私の肩にかかるほどに伸ばした髪に髪飾りのように挿して、満足そうに眺めては恍惚とした表情を浮かべて甘い台詞を垂れ流すのが習慣化してしまっている。
「////……だから、真面目に仕事しなきゃダメでしょ。すぐにそうやって私のこと揶揄ってばっかりなんだから!」
「まさか。僕は揶揄っているつもりなんてないよ。ただ、思ったことを口にしているまでだよ。僕は本当にノゾミのことが好きなだけなんだ。信じて? ノゾミ」
「////……あっ、ちょっと、そうやってすぐに手の甲にキスするクセ直してっていってるでしょ!」
「そんなの無理だよ。ノゾミの愛らしいこの手を見ていると、思わず口づけたくなるんだから、しょうがないだろう。本当はその可愛い唇に口づけたいのを我慢しているんだから、むしろ褒めて欲しいくらいだよ」
「////ーーッ!? もう、いい。先行ってる」
「あっ、待ってよ。ノゾミ~!」
毎回毎回、言いようのない羞恥に襲われた私がなんとかやめてもらおうと注意しても、レオンは至って真剣なようで、だから余計に私は盛大に戸惑っていた。
異世界に来て、知り合った若い男性といえば、私のことを追放した我が儘王太子とレオンくらいしかいないので、よくはわからないが。
おそらくこっちの世界の人は、イタリア人並みに軽いのだろう。
だから迂闊に気を許しちゃいけないと思う気持ちと。
聖女として身についていたらしいチートな能力がそうさせるかは不明だが、五感が働くというか直感というか……。
隣国のことを話す際などに、レオンが不意に覗かせる憂いを孕んだ表情というか、物言いというか、それらに触れたときに胸がザワザワとざわつくのだ。
根拠なんてないけれど、レオンが何かを隠しているようなそんな気がしてならなかった。