捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
羞恥に塗れつつ泣きそうになっていると、レオンから意外な言葉が飛び出してきた。
「ノゾミ、ごめんね」
ーーいくら謝罪してきたって許すもんか。
一瞬驚いたものの、そう思い直し身構えていたのに……。
「ノゾミがあんまり愛らしい反応を見せるものだから、つい調子に乗ってしまっただけだよ。本当にごめんね。これからはそんなことにならないよう努めるから、そんなに僕のことを嫌わないで」
さっきまで飄然としていたレオンが髪と同じ色のキリリとした凛々しい眉を八の字に垂れて、泣きそうな表情で懇願するように、切なげに声音を絞り出す。
途端に、私の胸はきゅうんと切ない音色を奏でてしまう。
ーーあぁ、やっぱりダメだ。
野々宮先輩とは中身は全然違うのに、見かけが似ているせいで、どうにも突き放すことができない。
それに、この二ヶ月の間、レオンと過ごしてきた中で、少なからず培ってきたものもある。
飄然として甘い言葉ばかり炸裂してくるレオンだけど、仕事も真面目に熟していたし、本気で私のことを揶揄っていないというのもわかっていた。
いつもレオンはレオンなりに真剣だったのだ。
ただこういうことに不慣れな私がひとり戸惑っていただけ。
一番の要因は、あの淫夢だ。
レオンはなにも悪くない。
ようやくそのことに気づくに至った私は、いつになくシュンとしょげてしまっているレオンに、ついうっかり口走ってしまう。
「やっ、別にレオンのことを嫌ってるわけじゃないから」
言った直後、自分の失言に気づいて取り消そうとする私より早く、レオンのこれまた意外な言葉が放たれた。
「誤魔化さなくてもいいよ。これまでずっと近くでノゾミのことを見てきたんだ。わかるよ。ノゾミは僕のことを嫌っているでしょう? なのに気を遣われると余計惨めになるよ。それにこういうことにも慣れているから気にしないで」
これまであんなに積極的だったはずのレオンの思ってもみなかった言葉に唖然としたが。
自分のこれまでの態度を思い返せば、レオンがそう思うのも無理はないだろう。
それよりも、『こういうことにも慣れているから気にしないで』と最後に口にしたレオンの表情が酷く悲しげで、そのことが妙に引っかかった。
けれどそのことには触れちゃいけない気がする。
誰にだって触れられたくないことはある。
だったらせめて、誤解だけでも解いておきたい。そう思った。