捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
跪く王子様
やがて甘やかなキスが終わっていた。
けれどもどうにも離れがたくて、レオンの胸に顔を埋めたまま、夢見心地でキスの余韻に浸っていると。
「本当に不思議だなぁ。ノゾミとこうしていると心がとても安らぐというか、癒やされるというか。とても心地が良くて、ノゾミと片時も離れたくないなんて、身勝手なことを思ってしまうだよね」
不意に降らされたレオンの甘やかな声音によって鼓膜を擽られた。
ーー私も。私も同じだ。
こうしてレオンとくっついているだけで、とっても安心できる。ずっとこうしていたいくらいだ。
それはレオンがまだ狼の子供の姿だった時から、ずっとそうだった。
レオンと同じ気持ちだったことが、どうしようもなく嬉しくて。
私は、知らずレオンの背中にまわしていた両腕を引き寄せ、ぎゅっとしがみついてしまう。
けれどそこに続けざまに紡がれたレオンの次の言葉によって、状況は一変することとなる。
「ノゾミの傍にいると、こう、身体の奥底から内なるパワーが漲ってくるような、そんな気がするんだ。やっぱり、聖女であるノゾミに秘められているという『驚異的な力』は偉大なんだろうね」
ーーなんだ、そういうことだったのか。
レオンは私自身にではなく、『聖女である私』に惹かれているだけなんだ。
きっと、行き倒れていたのを助けてもらったということと、ゴブリンの呪いで死を待つのみだったのを『治癒魔法』とやらで救ってくれた。ということが一番の要因だったに違いない。
それに加えて、所々抜け落ちている記憶のせいで、心細いだろうし、不安になっている。というのもあるのだろう。
こんな簡単なこと、どうしてもっと早く気づけなかったんだろう。
そこまで思考が及んで、私はハッとした。
ーー私、なんでこんなにショックを受けてしまっているんだろう。
もしかして、私、レオンのことをーー。
ある結論に達しかけたタイミングでレオンの至極心配そうな声音が思考に割り込んできた。
「ノゾミ? どうかした?」
我に返ると、眼前にはレオンの王子様然とした麗しいキョトン顔が迫っていて、ドキンとさせられた。
導きかけた結論も勿論だが、さっきレオンと交わした甘やかなキスのことを思い出してしまったからだ。
なんとか動揺を気取られないためにも、なんでもない風を装うのがやっとだった。
「あっ、ううん。ごめんなさい。ちょっとボーッとしてただけ」
「別に謝る必要なんてないよ。ノゾミに抱きつかれて少し驚いただけで、むしろ嬉しいくらいだよ。……ただ」
余裕のない私とは違って、いつもの飄然とした様子のレオンの言葉に、ホッと胸をなで下ろそうとしているところに、レオンが最後に放った気まずそうな声音が耳に届いて。
ーーん? なんだろう……。
今度は私が首を傾げてキョトンとする番となっている。