捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
そこへ、小鳥のさえずりにも劣らない、なんとも耳に心地のいい甘やかなレオンの声音が放たれた。
「ねえ、ノゾミ。この分だと、今日も早く終わりそうだね?」
その声で足下の薬草からレオンの方へと視線を向けると、採取した薬草が入った麻の袋を掲げながら微笑んでいる、キラキラと眩いほどのレオンの笑顔が待ち受けていて、胸の鼓動がドキンと大きく跳ね上がる。
ーーび、吃驚した。
すっかり気を抜いてしまってた私は、危うく心臓麻痺でも起こしちゃうんじゃないかと心配になったほどだ。
それをこの二週間で習得したなんでもないよ、という素振りを決め込んで、なんでもないように返事を返し、なんとかやり過ごす。
「う、うんっ。そうだね」
「だったらさぁ、明日の分も採取しておくっていうのはどうかな?」
「……え?」
「フェアリーに聞いたんだけど。あの下着の材料が必要なんだよね?」
「……う、うん」
「だったら、僕と一緒に一度王都の市井に行ってみない? 命を救ってもらったお礼と言ったらなんだけど、ノゾミのために力になりたいんだ。ダメかな?」
なんとか普通に会話を交わしていると、レオンから思ってもみなかった提案がなされた。
とても有り難い提案だったけれど、追われる身である私には、無理な話だ。
私だけならともかく、レオンにもルーカスさんにも迷惑がかかってしまうことになりかねない。
そんなことになったら、もうここにはいられなくなってしまうだろう。
ーーそんなの絶対嫌だ。やっと見つけた居場所を失いたくない。
身勝手なことこの上ないが、なによりもそれが一番怖かった。
レオンの気持ちは有り難かったし、嬉しかったが、こればっかりはどうしようもない。
「……気持ちは有り難いけど、私と一緒だとレオンにも迷惑かかっちゃうし。その気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう」
極力やんわりと、そう返すよりなかった。
「あっ、ノゾミ。違うんだ。この通り、ノゾミのお陰で傷もスッカリ癒えたし。ノゾミには危険が伴わないようにするから、僕に任せてくれないかな?」
それでもレオンは、どうしても私に恩義を感じているようで、なんとか尽力しようとしてくれていたようだったけれど、所詮は無理な話だ。