捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
再度、レオンに向けて口を開きかけたところへ、
「……否、ホントに気持ちだけでーー」
家の裏手の方から、不穏な雰囲気というか、黒い影のようなものがゆらゆらと煙のように風に流され漂ってきた。
これも聖女として召喚された私に備わっていたチートな能力の一つだ。
植物に色の違うオーラのようなものが見えるのと同じで、精霊が発信する危険信号を識別できるというものだった。
精霊のことに詳しいルーカスさんの話によると、特定の人にしか見えないだけで、掌サイズほどの小さな精霊はそこら中に存在しているらしい。
精霊は、自分のもつ波長と相性のいい生き物を見つけると、その傍に居着く習性があるらしく。
自分が傍に居着いた生き物に危険が及んだときには、危険信号を発するのだという。
どうやら私には、その危険信号を目視することができるらしかった。
「ねぇ、レオン。誰かが危険な目に遭ってるみたい。ど、どうしよう。もしかしたらフェアリーやピクシーかもしれない」
「ノゾミ。落ち着いて。大丈夫、僕が傍にいるから」
二人に危険が迫ってるかもしれないと思考が及んだ途端に、怖くなって足がすくんでしまったけれど。
レオンのお陰でなんとか自分を奮い立たせることができ、レオンとともに家の裏手へと向かった先には、これから村へ向かうために準備に追われていたらしいルーカスさんが地べたに尻餅をついて痛そうに腰をさする姿があった。
「「ルーカスさん!? 大丈夫ですか!?」」
「あー、ノゾミ様にレオン。いやはやお恥ずかしい限りです。わしとしたことがぎっくり腰のようですじゃ」
慌てて駆け寄った私とレオンのことを見るなり、気恥ずかしそうに背中を丸めてしまったルーカスさんは、どうやら尻餅をついた拍子にぎっくり腰を発症してしまったらしい。
ぎっくり腰にはなったことはないが、かなり痛いらしいので、こんなことを思うのは不謹慎この上ないけれど、命に関わるようなことでなくて本当に良かった。私は心底ホッとするのだった。