捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
レオンとはじめてのお遣い
ある問題が勃発したのは、ルーカスさんがぎっくり腰になってしまった日の夜のことである。
その問題とは、毎日のように薬草や薪を届けるために村に赴いていたルーカスさんの代役を誰が務めるかだ。
それだけならまだしも、国王陛下に精霊使いとして仕えていた頃からの長い付き合いであるお得意様に、珍しい薬草を届けに行かなければならなかった。
本音を言えば、ブラの開発のためにも、一度は王都の市井に行ってみたいという気持ちはある。
小妖精であるフェアリーとピクシーを除くと、レオンか私のどちらかになるが、追われる身となっている私には、当然のことながら無理だと思われた。けれど。
『僕の変身魔法をもってすれば、ノゾミが聖女だなんて誰も気づきやしないから安心して欲しい』
という、レオンからの予想外な言葉によってレオンと私とが王都に赴くことになったのである。
なんでもレオンは、魔法の中でも『変身魔法』が得意であるらしいのだが、ゴブリンの呪いのせいで使えずにいたのだという。
それが傷が癒えたせいか、以前のように魔力が戻ってきているらしかった。
それが昼間の『一緒に王都の市井に行ってみない?』発言へと繋がったらしいのだ。
ということでつい今しがた、自室で準備に励んでいたところに、『打ち合わせがしたいと』言ってきたレオンから、
『好きな装いとか、こんな風になりたいとかいうのはない? もしあるならなんだって叶えてあげるよ』
そう問い掛けられた事により……。
『変身魔法』とやらがどんなものかと興味津々だった私は、うっかり、幼い頃に憧れていたシンデレラの事を喋ってしまったことにより、可笑しなことになってしまっている。
「お姫様かぁ。ノゾミにぴったりだと思うんだけどなぁ」
「……そ、そうかなぁ。ただ、小さい頃に読んだ絵本で見て、憧れてただけだから。別に自分がそうなりたいとかじゃないから」
「だったら尚更だよ。それに、ちゃんと魔力が戻ったかの確認もしたいし、試させてもらってもいいかな? ね? ノゾミ。お願い」
「そ、そういうことなら、いいけど」
「ホントに?」
「う、うん。試すだけだったら」
「ありがとう」
レオンは私の言葉に、俄然ヤル気を出している様子で、綺麗なサファイアブルーの瞳をキラキラと煌めかせガッツポーズを決め込んでいる。
そんなレオンの様子をチラチラと窺いつつ、野々宮先輩に瓜二つなせいか、どうも私は、レオンのお強請りに弱いらしい。なんてことを思っていると。
「ノゾミ、準備はいいかい?」
「は、はいッ!」
レオンの問いかけにより、いよいよなんだと思うと、緊張してぐっと身体に力が入ってしまう。