捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
そんなどこかのご令嬢仕様の私の姿を前に、レオンはとっても満足げに見遣ったあとで。
「ノゾミの可憐な愛らしい顔にはこれくらいでないと釣り合わないからね。これ以上は譲れないよ」
「・・・」
王子様然とした麗しい顔に、なにやら悪戯っぽい黒い微笑を湛えつつ、そんなことを囁いてきたので、どうやら確信犯だったらしい。
とはいえ、自分では変身魔法なんて使えないから、早々に諦めることにした。というのは建前。
表面上はその体で振る舞ってはいるが、正直なところ、満更でもなかったのだ。
大学デビューを果たしたくらいだ。
これまでの自分を変えたいと思っていた私にとっては、まさに渡りに船だった。
だって一度は死んだ身なんだし、異世界なんだし、一度くらい羽目を外してもいいよね。
なんてウキウキしてたものだから、知らず知らずのうちに姿見の前でクルンとターンなんかしてしまっていて。
「気に入ってくれたようで何よりだよ。あー、明日が待ち遠しいなぁ。早くノゾミとデートがしたくてどうしようもないよ」
「////……で、デートじゃなくて、王都へのお遣いだからッ!」
「あー、照れてるノゾミも可憐だなぁ」
「////ーーッ!?」
それをクスクスと笑みを零したレオンに指摘された上に、『デート』なんて言葉まで持ち出されてしまうこととなった。
何を言っても飄然と甘い台詞をお見舞いしてくるレオンと一緒に王都へと出向くことに、一抹の不安はあるにはあったが、わくわくとした期待感の方が勝っていて。
まるで遠足の前日のような心持ちで久々に眠れない夜を過ごし、いよいよ王都へと出向く当日の朝を迎えたのだった。
「レオン、くれぐれもノゾミ様のことを頼みますじゃ」
「はい、勿論ですよ。僕にお任せください」
「じゃあ行ってきま~すッ!」
「お気をつけて」
「ノゾミン、レオン、気をつけてね~!」
「行ってらっしゃ~い。お土産も忘れないでね~!」
皆に見送られるなか、ルーカスさんの代役として、荷車に積んだ薬草と薪を届けるため、私とレオンは王都へ向けて出発したのである。
その様子を少し離れた繁みのから静かに窺っている者がいることなど知る由もなかった。