捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
ご令嬢と執事
皆に見送ってもらっているさなか、レオンがどこからともなく取り出した、藁で作られた四つん這いの動物の形を模した人形が地面に置かれた。
それを目にしたルーカスさんが、「おお、それは馬ですな」といった言葉通り、澄ました表情のレオンがパチンと指を鳴らすと、あら不思議。
どこからともなくもくもくと白い煙のようなものが現れたかと思えば、瞬く間に藁人形が立派な馬へと変貌を遂げていた。
ーーす、凄いッ! そんなことまでできちゃうんだ。
昨夜体験した変身魔法もそうだったけれど、あの時は瞼を閉ざしていたから、その瞬間を見たわけじゃなかった。
目の当たりにしてしまったのとでは、まるで印象が違っていて、スッカリ興奮してしまった私は、感嘆の声をあげて思わずレオンに飛びついてしまう。
「レオン、凄いッ! そんなこともできちゃうんだぁ。もう吃驚しちゃった!」
「いや~、それほどでもないよ。これくらいのことは朝飯前だよ」
「イチャイチャしてるとこ悪いんだけど、そんなことやってたらいつまで経っても王都に着かないんじゃない?」
「……そ、それでは、行ってきます」
その様子を見守るようにして、ニコニコといつもの笑顔を浮かべているルーカスさん。
腰が痛くて一人では歩けないルーカスさんのことを支えているピクシーは、ニマニマとしている。
その隣にふわふわと浮遊しているフェアリーからは、これまたお決まりのツンとした言葉が寄越されて、我に返った私は、気まずい心持ちで出かけたのだった。
そんなこともあって、わくわくと期待感に満ちていたはずが、レオンのことを余計に意識してしまっている。
そんなことをやっているうちに、ルーカスさんの家がある精霊の森からおおよそ一時間少々のところに位置する村へと到着していて、少し前に薪を届け終えたところだ。
因みに、王都へ行くのに荷車があると邪魔だということで、薪を届けた際に荷車も預けてきた。
村から王都へは徒歩で半日ほどかかるそうだ。
予定では、ずっと歩いて向かうはずだった。そのはずだったのだけれど……。
元いた世界の靴に慣れてしまっている私には、異世界の靴が足に合わなかったようで、靴擦れを起こしてしまったのである。
「ノゾミ、さっきから足を庇ってるようだけど、大丈夫?」
「う、うん。平気平気」
「本当に? ノゾミは遠慮深いから心配だなぁ。ちょっと見せてみて。ーーほら、思った通りだ」
それを目敏くレオンに見破られてしまった所為で、急遽、村からは馬に乗って向かうことになったのだが。
ただでさえレオンのことを意識してしまっている私にとっては、拷問のようなものだった。
なんでも乗馬も得意だというレオンに、問答無用で横抱きにされてしまっているからだ。
「////……ね、ねえ、レオン。私、やっぱり歩く」
「ダメだよ。ノゾミは旅に不慣れなんだから、これ以上、足を痛めたりしたら大変だよ。それに、ルーカスさんにも、ノゾミのことを護るって約束したんだ。ノゾミに何かあったら、ルーカスさんに顔向けできなくなってしまうよ」
「そ、そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ。僕にとってもノゾミは大切な存在なんだ。いくらノゾミの頼みでも、これだけは譲れないよ」
結局レオンには聞き入れてもらえず終いだった。この体勢で王都までの長い道のりを辿っていくのかと思うと、それだけで、羞恥が込み上げてきて、どうにかなってしまいそうだ。