捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
確信と噓

 春の心地いい風が髪や頬をそうっと優しく撫でていくなか、馬に乗ってのなんとも優雅な旅が続いていた。

 元いた世界とは違って、アスファルト舗装されていない道は、でこぼこしていて、そこかしこに大小様々な石が転がっている。

 この道は、早馬を走らせたり、歩いての旅に利用されているそうで、馬車が通る専用の道は、少し離れたところに平行して設けられているそうだ。

 しばらく続いた林を抜け、視界に広がるのどかな田園風景を眺めていると、数メートルほど離れたところに、確かにそれらしい道が見て取れる。

 王都から精霊の森に行き着くまで一度は通ったはずだが、その時の記憶はとても曖昧だ。なので。

 ーーあー、本当に、ここは異世界なんだなぁ。

 今更ながらに実感した私は、改めて自分の姿を見下ろしてみる。

 当然そこには、レオンの変身魔法により、おとぎ話やファンタジーの物語の中から飛び出してきたような、リボンやフリルがついた可愛らしい薄桃色のドレスに身を包んでいる自分の姿があるわけで。

 背後には、同じく物語の中から抜け出てきたような、執事の格好をした麗しいレオンの姿がある。

 そうしてこれまた物語に登場してくる王子様が乗っているような白馬ではないにしろ、茶色い立派な馬に跨がっている。

 なんだか、夢の中の出来事のようだ。

 そんなことをぼんやり考えていたせいか。

 ーー実は、地震に遭ったのも、異世界に転移してきたっていうのも、全部夢だった。なんてオチだったりして。

 ふと、そんな考えが脳裏に過ぎった途端、どうにも切ない心持ちになってしまった。

 どうやら自分で思っている以上に、この異世界での暮らしにずいぶんと染まってしまっているようだ。

 もしも叶うことなら、このままずっとあの精霊の森で皆と一緒に暮らしたい。

 勿論、レオンとも一緒に。

 だからって、別に、レオンのことを好きだとか、そういう意味じゃない。

 家族同然っていう意味でだ。

 でも、それに関しては、そう遠くない未来にお別れがきてしまうに違いない。

 傷もすっかり癒えて、この通り、魔力も元に戻ったようだし。記憶だってそのうちにきっと……。

 おそらくこの王都への短い旅が、レオンとの最初で最後の旅となってしまうのだろう。

 そう思うと、胸がキューッと締め付けられたような心地に襲われた。

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