捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
負けじと何かを返そうと、背後のレオンに振り返ろうとした刹那。
慣れない馬の上だというのを失念していた私は、バランスを崩してしまう。
「キャッ!?」
「ノゾミッ!?」
今まさに、馬から真っ逆さまに転げ落ちるということろで、そのことにすぐに気づいたレオンに身体を抱き留められることでなんとか事なきを得た。
けれども、この異世界に転移してくる直前に巻き込まれた地震のことを思い出してしまった私の身体は、依然ガタガタと震えたままだ。
「ノゾミ、ごめん。僕がもっと気をつけていれば、こんな風に危険な目になんか遭わせずに済んだのに。本当にごめんね」
そんな私の身体をレオンはふわりと包み込むようにして抱きしめてくれている。
お陰で、数分もすれば、身体の震えも完全におさまってくれていた。
それなのに……。
レオンから離れることができない。
ずっとずっとこのままでいたい。なんてことを思ってしまう。
そこへ、私の様子を窺うために抱きしめてくれている腕を解いて、私の顔を覗き込んでくるレオンの蒼く煌めく綺麗な瞳と視線が絡まり、魅入られたように身動ぎどころか瞬きさえもままならなくなる。
「ノゾミ?」
「レオン……私」
反応を返さない私のことを案じたレオンに心配げな声音で問われて、無意識に自分が口走ろうとした言葉に気づいた私は、レオンに対する自分の気持ちを確信してしまった。
だからといって、この想いは報われることはない。
レオンは命を救った聖女である私に好意を寄せているに過ぎない。
もしかしたら好きだと勘違いしているだけなのかもしれない。
どちらにせよ、いずれは隣国に帰ってしまうのだから。
ーーレオン、私、レオンとずっとこうしていたい。離れたくない。ずっと傍にいて欲しい。
そうやって、いくら願ったところで、どうにもならないどころか、記憶を取り戻したレオンにとって、重荷でしかないはずだ。
だったら、そっと胸の奥底に閉じ込めておかなきゃ。
「ちょっと吃驚しちゃったけど、大丈夫。ほら、この通り。なんでもないから」
口にしかけた言葉を飲み込んだ私は、そのことをレオンに気取られないように誤魔化すのに必死で返した言葉は、自分でも驚くくらい、自然なものだった。
こうして人は大人になっていくのだろう。
だったら早く大人になりたい。ひとりでも生きていけるように強い大人に。