捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
楽しい想い出作りのために
「ねえ、レオン」
「なんでございましょう? お嬢様」
ーーもう、レオンってばすっかり執事気取りなんだから。でももう気にしない気にしない。
こんな風に思ってる時点で、メチャクチャ意識しちゃってるのだが。
それでもこれ以上気にしないためにも、それとなく話題を変えようとしてのことだった。
なにより一番気になっていた、記憶を失っているレオンの現状を把握しておくためにも。
とはいえ、知りたいと思う気持ちと、知りたくないという気持ちとがない交ぜになっているせいで。
「……傷も癒えて、魔力も戻ってきて、所々抜け落ちてしまった記憶はどうなのかなって、思って」
問い掛けた途端に、猛烈に後悔する羽目になっている。
自分の言葉を受け、手綱を操っているレオンの身体が僅かに強張ったような気までしてくる。
ーーあー、やっぱり聞きたくない。
現実逃避するように、ぎゅっと瞼を閉ざすと同時にレオンから、
「……聖女であるノゾミの驚異的な力をもってしても、こればっかりは無理なようだねぇ。現状維持ってところかな」
いつもの飄然とした口調での返答がなされて。
「そ、そう」
レオンには、なんでもないように応えたけれど、内心は穏やかじゃなかった。
何故なら、レオンがまだ記憶を取り戻していないことに、心底安堵してしまったせいだ。
ーー私ってば、最低だ。
今度は罪悪感に苛まれてしまっている。
そこへ、レオンからは思ってもみなかった言葉が投下され。
「えらく、残念そうだね、ノゾミは。そんなに早く僕にいなくなって欲しいの?」
気づいた時には、条件反射的にレオンのいる背後に振り返るなり、
「そんなわけないじゃないッ! どうしてそんな風に言うの?」
そう放ってしまっていた。
なんでもないように装ったせいで、レオンに、そんな風に思われていたのがショックでならなかったからだ。
なのにレオンからは、思わず漏らしてしまったのだろう笑みが聞こえてくる。