捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
それはおそらく、私が案じているのと同じで、勢いで口に出してしまったものの、これから先のことを思うと、それ以上踏み込んでしまうのが怖くて、躊躇したからに違いない。
それなら私もレオンに合わせて、騙されたことにすればいい。
これからは、レオンとのこの短い旅のなかで、楽しい想い出をいっぱい作ることに専念しよう。
「ーーど、どういうこと?」
「王都の商人は、皆口が達者だから、無用な物まで売りつけられやしないかって、心配だってことだよ」
「え、でも、売りつけられたところで余計なものまで買うようなお金なんてないし。第一、そんなのに引っかかんないし」
「どうだかなぁ」
「もう、大丈夫だってば」
「はい、はい」
「あっ、信じてない」
「そんなことはございませんよ。お嬢様」
「もう、レオンってば。都合が悪くなったらすーぐ執事に戻るんだから」
「そんなことはございませんよ」
さっきのことなど、まるでなかったかのように、お嬢様と執事という設定通りにやり取りを繰り広げていると、不意に視界の隅に黒っぽい何かを捕らえた。
ーーん? なんだろう。
意識を集中させると、それはどうやら道ばたに蹲っている年配の女性の姿のようだ。
「ーーねえ、レオン。あの女性」
「あー、あの者は、乞食ですよ。道行く者に物乞いをしているのですよ。王都の周りでは珍しいことではございません。イチイチ気にしていてはキリがありませんし、相手にせずに、そのまま行きましょう」
レオンの話によると、王都の近くには、通行人にこうして物乞いをする人たちがたくさん集ってくるらしい。
けれども見るからに、体調が悪そうな女性の姿に、生前の祖母の姿が重なってしまう。
いても立ってもいられなくなってくる。
「え? でも、あの人お年寄りみたいだし。それになんか調子も悪そうだし。気になるから様子見てくる」
「過度の施しは無用ですよ。あーいった者は図に乗りますので」
「ちょっと見てくるだけだからっ」
「あっ、お嬢様ッ!」
私はこうなってしまうと、もう何も耳には入ってこなくなってしまうらしい。
精霊の森でレオンのことを救ったとき同様、レオンの止める声など無視して馬から飛び降りた私は、道ばたの女性の元へと一目散に駆け出していた。