捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
けれどもレオンから返ってきた言葉に、私は落胆することとなる。
「……もう遅いですし、市井は明日に致しませんか?」
当然、快い返事が返ってくるものだと思い込んでいた私は、なんだか、自分の気持ちまで否定されてしまったように感じてしまう。
この気持ちが、我が儘だってことはよくわかっている。
これから先のことを思うと、踏み込むのが怖いという気持ちだって、今も変わらない。
でも、今こうしている間だけは……
レオンのことをこれ以上変に意識したりせずに、楽しい想い出でいっぱいにしたい。
そして、心の奥底では……
私のことだけを見ていて欲しい。私のことだけを考えていて欲しい。そう願ってしまう。
そんな想いに突き動かされて、聞き分けのない子供のようだなと思いつつも、そう聞き返さずにはいられなかった。
「え? どうして? まだあんなに賑わっているのに。どうしてダメなの?」
そんな私の様子に、一瞬、驚いたように、目を瞠ったレオンだったが、すぐに執事仕様の丁寧な口調で諭してくる。
「……それは。夜になると、酒に酔った輩がうろつくからですよ。そんなところに、大事なお嬢様をお連れするわけには参りませんので、宿に参りましょう。ね?」
いつもなら、きっと、『レオンのケチ。フンッ!』なんて、フェアリーのことを真似て悪態をつきつつも、レオンの言葉に従っていただろう。
けれど、どういうわけか、この時の私は、聞く耳など持ち合わせていないかのような有様だった。
「そんなの、レオンが傍についてくれてれば大丈夫だってば」
「そういうわけには参りませんよ」
「どうして? レオンは、なにがあっても私のことを護ってくれるんじゃなかったの? それとも、あれは口先だけのことだったの?」
「そんなことないよ。僕は何があってもノゾミのことを護ってみせるよ」
「だったらいいわよね?」
「否、でも……」
「もういい。ひとりで行くから」
「あっ、ちょっ……お嬢様、お待ちくださいッ!」
引き留めようとするレオンに対して、どうしても市井に行きたいとごねる私のことをなんとか説得しようとするレオン。
しばらくの間、市井に『行く』『行かない』の押し問答が繰り広げられていた。
やがて素に戻って、護るといいながらも、頑なな態度を貫こうとするレオンの態度に、だったら問題などないとばかりに、業を煮やし、馬から飛び降りてしまった私は、市井に向けて真っ直ぐに歩みを進めるのだった。
自分でもどうしてなのかは、さっぱりわからない。
けれどもきっと、レオンがどれだけ自分の我が儘を聞き入れてくれるか、知りたかったのだろうと思う。
レオンが私の気持ちを確かめるためにカマをかけたのと同じように、レオンの気持ちを確かめたかったのだろう。
本当に、同じ想いでいてくれているのかってことをーー。
そう遠くない別れの時が訪れてしまう、その前に。