捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
王都で迷子?
強引に馬から降りて正面に見える市井に向けて突き進んでいた私は、すぐに追ってきたレオンによって腕を掴まれ、グンと強い力で引き寄せられる。
「お嬢様、お待ちくださいッ!」
「ヤダッ! 放してッ!」
どうせ連れ戻されるに違いない。そう思いレオンの手を力任せに振り払った。
そんな私の心の中では……
今度こそレオンに我が儘な女だって呆れられたに違いない。もしかしたら、もうこんな女の面倒なんて見てられない。そう思われているのかもしれない。
どうしてあんなこと言っちゃたんだろう。本当は、レオンともっと楽しい時間を過ごしたかったはずなのに……。
そんな後悔ばかりが渦巻いている。
けれども長身に加えて、意外にも精悍な体躯をしているらしい成人男性であるレオンの力に、女である私には到底敵うわけもなかった。
強い力で手首を掴まれ尚もぐっと正面に引き寄せられる。
そうして真っ直ぐに、冴え冴えとした蒼い瞳で射貫くように強く見据えられ、魂ごと囚われてしまったかのように、もう動くことさえままならない。
ーーもう観念するしかないのか。
そう落胆しかけていると、険しい表情をしていたレオンの表情がふっと緩んで、予想とは違う言葉が降ってきた。
「……そんな泣きそうな顔しないでよ。連れ戻しにきたわけじゃないから」
加えて、素に戻ったレオンの声音が思いの外優しいものだったことで、私の言動に呆れたり怒っているわけではないことが窺える。
なにより、レオンが私の我が儘を聞き入れてくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。
レオンにしてみれば、強行突破しようとする私に、ただ譲歩してくれたに過ぎないのだろう。
それでも、私のことを見捨てたりせずにいてくれたことがただ単純に嬉しかったのだ。
気づけば、小さな子供がはしゃぐような感じでレオンに飛びつくように迫ってしまっていた。
「え!? じゃあ、行ってもいいの?!」
そんな調子で感情を抑えることのできない私は、ゲンキンにもほどがあるというくらいに、嬉々とした表情をしていたのだろうと思う。
そんな私に対してレオンから、苦笑いを浮かべつつ、
「……やれやれ、自分から行くって強引に馬から降りておいて、そんなに驚くことないでしょう? それにそんな嬉しそうな顔するなんて反則だよ」
そう言って言葉がかけられたくらいだから、きっとそうだったに違いない。
ただ最後の最後に零した『反則だよ』の意味が理解できずに、私は首を傾げるしかなかったけれど。
「ーーへ?」