捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
「ううん、なんでもないよ」
レオンは相変わらず少し困ったように笑みを零しながらもそう答えてくれたので、さほど大した意味などなかったのかもしれない。
その証拠に、キョトンと長身のレオンのことを見上げている私に、
「そんなことより、店じまいする前に早く行きますよ? ほら」
執事仕様の口調でそう言ってくるなり、掴んでいた私の手首もそのままに、市井へ向けてスタスタと足を進めてしまったレオンは、もういつも通りだ。
心なしか、なんだかとっても楽しそうに見える。
たったそれだけのことで、沈んでしまってた私の心は完全に上向いていた。
「あっ、ちょっと。レオン、待ってってば~」
「待ちません」
「もうー、レオンのケチッ!」
「はいはい。どうとでもおっしゃってください」
「あっ、大人ぶってる」
「お嬢様よりは大人のつもりですから」
「////ーーッ!!」
それからは、これまで同様、お嬢様と執事になりきって、王都の市井巡りを楽しんでいた。
様々なお店が軒を連ねるなか立ち寄ったのは、なんでも王家御用達の豪華なドレスやコルセットなどの、高級品とされる商品を取り扱っているお店だ。
レオンと一緒に店に足を踏み入れると、そこには、ドレスや下着類だけでなく、様々な刺繍や模様が施されたカーテンのような大きさの煌びやかな色の布が所狭しと陳列されていた。
奥から現れた店主と思われるふくよかな女性が色んな商品を薦めてくれたが、どれもこれもお高い物ばかり。
おそらく、執事を従え、どこかのご令嬢のような華やかなドレス姿の私は、お金に糸目をつけない上客に見えたのだろう。
つきっきりで、アレコレ丁寧に商品の説明をしてくれていた店主に申し訳なく思いつつ、お目当てだった下着の開発に役立ちそうな物だけを購入し、あからさまに落胆した店主の溜息交じりに放たれた『ありがとうございました。またのお越しを』の言葉に見送られ、つい先程店をあとにしたところだ。
そうなると、あとは宿屋に向かうだけ。
そう思うと途端にレオンのことを意識しはじめてしまう。
ちょうどそのタイミングで隣に並んで歩いていたレオンに追い打ちのように、
「さてと、お目当ての物も手に入ったことですし、そろそろ宿屋に向かいましょうか?」
そう進言されてしまうと、以前よく見ていた淫夢のなかで繰り広げられていたアレコレまでが脳裏に蘇ってきてしまう。
「////……うっ、うん」
お陰で妙な緊張感にまで見舞われてしまうのだった。