捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
「どうしました? もしかして、お腹でもすきましたか?」
そんな私の様子に、どうやらレオンは空腹で元気がないと思ったらしい。
レオンの勘違いにより、救われることになったのだが。
「……え、あっ、うんうん。そうなの。もうさっきからお腹がすいちゃって、お腹と背中がくっつきそうだったの。ははは」
好きな人にそんなことを言われてしまうのには、少々複雑な心境だ。
なので乾いた笑みを零してしまったが、レオンは気づくことなく、食事ができそうな店を物色しはじめたようなので、私はこっそりと胸を撫で下ろしたのだった。
と、そこへ、数メートル先にある可愛らしいレストラン風の店を指し示したレオンがこちらを窺ってくる。
「じゃあ、あそこの店で食事を済ませましょうか?」
「そ、そうだね。そうしよう」
けれども私は、少々複雑な心境だったので、さっさと歩みを進めてしまうのだった。
「あっ、またそうやってひとりで先に行こうとする」
「すぐそこなんだから大丈夫だってば。ちょっとメニューが見たいだけだから」
「あっ! お待ち下さいッ。お嬢様!」
背後から慌てた様子で追ってくるレオンの声を背中で感じつつ、行き交う人でごった返すなか、縫うようにして歩みを進めていたはずが、次に振り返ると、ついてきてくれていたレオンの姿がないことに気づいた。
ーーあれ? レオンは?
人波の流れに抗うように立ち止まり、辺りをキョロキョロ見渡していると、ドンッと人にぶつかってしまい。
見ると、大柄の男が大きな壁の如く立ちはだかっていて、慌てふためいた私は、兎に角謝ろうと深く頭を下げ続けた。
「す、すみませんッ」
けれど、ぶつかった相手が悪かったようだ。
行く手を阻むようにして正面で立ちはだかる大柄の男からは、私のことを小馬鹿にしたような卑下た声が返された。
「あっれ~! こんなところで可愛らしいお嬢ちゃんがひとり寂しくどうしちゃったのかな~? もしかして、お家の人とはぐれちゃった?」
「……え? 否、そういうわけじゃ」
その声に顔を上げた私の視界には、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた男の口元が映し出されたことによって。
誠心誠意謝罪すれば、きっと許してくれるだろうという考えは、すぐに覆ることになる。
「ーーッ!?」
と、同時に、気づいたときには、見るからに柄の悪そうな五、六人の輩たちに周囲をグルリと取り囲まれていて、完全に逃げ場を封じられていたのだった。