捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
王都に狼現る!?
包囲されてしまったとはいっても、ここは、人でごった返している往来だ。
周囲の人たちに大きな声で助けを求めたら、きっとその騒ぎを聞きつけたレオンが駆けつけてくれるに違いない。
ーー早く大声を上げなきゃ。
そう思うのに……。周囲を取り囲んでいる男らがじりじりとにじり寄ってくるその様が、この世界に召喚されていきなり追放されてしまった際に、数人の男らに攫われそうになった時の状況と重なってしまう。
同時に脳裏には、あの時の光景が鮮明に蘇ってくる。それらに伴い、全身には戦慄が駆け巡る。
ブルブルと小刻みに震えはじめた身体が言うことを聞いてくれない。
大声を出すどころか、円を描くように囲っている男たちの眼前で、一歩も動けず、ただただ身をすくませていることしかできないでいる。
男たちは、そんな私のことを心底愉しそうに眺めながら、各々好き勝手なことを口にしているようだが、そんなものなど頭には入ってこない。
「初心な反応だな~、お嬢ちゃん。あんまり初心で可愛いからさぁ。お兄さん、お嬢ちゃんに手取り足取り、いろ~んなことを教えてあげたくなっちゃったよ~」
厭らしい口調で訳のわからないことを口々に放ちながら、徐々に徐々に距離を詰めてくる男たちに、底知れぬ恐怖心が沸き起こってくる。
ぶつかって最初に声をかけてきた男にいきなり腕を引っ掴まれて、恐怖心と嫌悪感が頭の中を支配する。
「い、いや……ッ」
思わず放った声は、蚊の鳴くようなとてもか細いもので、抵抗したところで、なんの威力もなかった。
そこへ、腕を掴んだ男とは違う、また別の男の声が背後からかけられる。
「そんなに怖がらなくても、お兄さんたちが優し~くしてあげるから、大丈夫だよ~。ここだと通行の邪魔になるから、あっちに行こうか?」
いつしか背後にピッタリと張り付くようにして身体を寄せてきた男の熱い息に耳元を擽られて、湧き立つ嫌悪感に身体が尚もブルブルッと震え上がった。
そうこうそしている間にも、大柄の男たちは小柄な私の腰を掬うようにして引き寄せると、力ずくでそのまま人気のない裏通りに連れ込もうとする。
なんとか足掻こうにも、女ひとりの力で、六人の男たち相手に抵抗するなんて無理な話だ。