捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
このまま男たちにいいように弄ばれてしまうのかと、絶望しかけた、その時。
「ノゾミッ!?」
様々な音で溢れかえっている往来の雑踏の中、大声で放たれたレオンの声がやけに鮮明に響き渡った。
ーーレオン。助けに来てくれたんだ。良かった。
そう安堵しかけた刹那。
私のことを薄暗い路地裏に引きずり込もうとしていた男のひとりが突如、「ぐぁッ!!」と苦しげな唸り声をあげた、次の瞬間には、地面にドサッと倒れ込んでしまう。
辺りにはその衝撃で巻き起こった土埃がけぶるように宙を舞っている。
ーーえ!? なに? 一体どうなってるの?
状況が把握できずに、ただただ土埃の舞うなか呆然と立ち尽くしていると、周囲の男たちが次々に地べたに倒れ込んでいく。
その上に折り重なるようにして、倒れ込んだ男たちが山のように積み上がっていく。
そうしてあれよあれよといううちに、最後のひとりが断末魔のような苦しげな唸り声を放って倒れ込んだのを最後に、辺り一帯が水を打ったかのような静寂に包み込まれた。
やがて一帯を覆い尽くしていた土埃がおさまってくると、大きな黒い影が浮かび上がってきて、そこに現れたのは、なんと、成人男性の身の丈ほどあろうかというほどの、大きな狼だった。
しかも、人のように、後ろ足だけで立っている。
その姿がロマンチックな雰囲気を醸し出しているアンティーク調のオシャレな外灯に、スポットライトの如く照らしだされているせいか、とても綺麗だ。
ーーあれ? そういえば、レオンはどこ?
突然の大きな狼の登場には驚いたものの、今はそれどころじゃない。
さっきは確かにレオンの声を聞いたし、姿だってこの目で見た。
なのにどこを見渡してもレオンの姿がない。
ーーもしかして、この狼にやられちゃったの?
真っ青になった私が倒れた男たちの元に駆け寄りレオンの姿を探し求めていると。
「ギャーーッ!! 獣人よ! 誰か助けてーーッ!!」
事の成り行きを静かに見守っていた人垣の中の女性が半狂乱で悲鳴を上げたのを皮切りに、周囲にいた人々が口々に悲鳴を上げながら散り散りに逃げ惑いはじめた。