捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
あんまり強い力だったものだから、息ができないくらいだ。思わず。
「くっ……くるしいぃ」
そう漏らせば、ハッと我に返った様子のレオンが大慌てで私のことを抱きしめていた腕の力を緩めて、とっても心配そうな顔で私の様子を窺ってくる。
「あっ、ごめん。嬉しかったものだから、つい。ごめんね。大丈夫?」
「うん、平気」
なんだか飼い主に叱られてシュンとした大型犬のようで、とっても可愛く見えて、胸がきゅんとなった。
こういうところが堪らなく可愛いな。けど、男らしいところもあって、ピンチになると必ず駆けつけてくれる。
ーーなんだか本物の王子様みたい。
そこまで思考が及んだ時、以前よく夢に見た王子様の姿が脳裏を過った。
羞恥に襲われ、いたたまれなくなってしまった私は、ホッと安堵の息を漏らしつつ「良かった」と呟きを落とすレオンの胸を両手で押し返しつつ。
「あっ、じゃあ、誤解も解けたようだし。私は、身体でも清めてこようかな。だから放して」
そう言って、宿屋の裏手にあるらしい大浴場に向かおうとした私の目論見は、すかさず返されたレオンからの真剣な声音によって、物の見事に外れることとなった。
「待ってノゾミ。その前に、ノゾミには僕のことをちゃんと話しておきたいんだ。だから、あとにしてくれないかな?」
思わず喉をゴクリと鳴らしてしまった私は、とうとうその時がきてしまったのかと、覚悟を決めて。
「……わかった。聞かせて」
返答を返し、レオンに促されるままに、ふたりがけのソファにレオンと隣り合って腰を落ち着けた。
覚悟を決めたつもりが、いよいよだと思うと、怖じ気づきそうになってしまう。
私が無意識に膝上でぐっと拳を握りしめたところで、思い切るようにして短く息を吐いたレオンがゆっくりと語りはじめた。
「僕の母は、人間である祖父と獣人である祖母の間に授かった子供。つまり人間と獣人のハーフなんだよ。そして母が貴族である父と出会って結婚し、僕が生まれた。僕には兄も妹もいるんだけど、その血を受け継いだのは僕だけなんだ」
その昔、この国にも隣国にも、人間と妖精だけでなく、獣人もたくさんいて、種族関係なく仲良く暮らしていたらしい。
けれど長い年月が流れていく中で、いつしかその見かけから、獣人は粗暴だとか野蛮だとかいうイメージが定着するようになっていった。
そのきっかけとなった、百年ほど前に起こったある悲劇が元で、獣人は迫害されるようになっていったのだという。
ある悲劇とは、人間が獣人に殺されてしまうという、痛ましいものだったらしいが、それは事故だったことがあとになって判明したらしい。
それど事件を機に、獣人が野蛮で危険だという概念がいつしか人々に根づいてしまったというのだ。