捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
今、この瞬間だけは
レオンからの思いもよらなかった言葉に、一瞬、時が止まったかのような錯覚に囚われる。
思考も呼吸さえも止まり、声を発するのに数秒の時間を要した。
「……え?」
どうやらそのせいで、レオンは私がレオンの家族に受け入れてもらえるかを不安がっていると思ったらしく。
「大丈夫。心配には及ばないよ。僕の家族は、堅苦しい形式を重んじるような古い人間ではないし。それに獣人の血を受け継いだ僕の元には、誰も嫁ぎたがらないからね。なにより、聖女であるノゾミなら大歓迎だよ」
私の不安をなんとか解消しようと切々と説いてくれている。
けれどどんどん飛躍していく話の内容に、私の頭が追いついていかない。
「……え? それって」
ーーもしかして、私がレオンのお嫁さんになるってこと?
そう聞き返そうにも、レオンの話は止まらない。
止まらないどころか、どんどん先へ先へと進んでいってしまう。
「あっ、でも、だからって誰でもいいっていうわけじゃないんだ。僕が見初めた相手であるノゾミならってことであって。だから、安心して。ね?」
「え? それって、もしかしなくても、私がレオンのお嫁さんになるってことだよね?」
ようやく言い終えたレオンに向けて、吃驚したせいで未だ瞠目したままの私が聞き返すと。
「うん、そうだよ。僕の妻になれば、異世界から召喚されたノゾミにも、僕の妻として爵位が得られるんだよ。そうなったら、もう追われたりすることもなくなる。普通に暮らせるんだよ」
これまた夢にも思っていなかった言葉が返ってきた。
そのどれもこれもが、この異世界に召喚されて追われる身となっている私には、とても魅力的なものばかりだ。
けれどそんな私の脳裏に、この異世界にきて追放されて、行き着いた精霊の森で助けてくれたルーカスさん。それから親友同然のフェアリーとピクシーの姿が浮かび上がってくる。
それだけじゃない。
助けてもらったあの日から、これまでのことが、あたかも走馬灯のように次々に蘇ってくる。
この世界にきてからの、この四ヶ月半の間、ずっと一緒に暮らしてきたのだから、そんなの当然だ。
あの日、ルーカスさんに助けてもらっていなかったら、私は今こうして生きながらえていなかっただろう。
フェアリーやピクシーだってそうだ。
陽気なふたりにどれほど救われたことか。
皆がいなければ、今の私は存在しない。そういっても過言ではない。
それに、ルーカスさんは、半年前に、流行病で奥さんを亡くしている。
だからよく、一緒に暮らすようになって、話し相手ができたお陰で、張り合いができたと言ってくれていた。
あれは、私が居づらくならないための、ルーカスさんの優しさでもあり、本心でもあったのだと思う。
そんな優しいルーカスさんも、寄る年波には勝てないのだろう。
近頃、足腰が弱くなったと零すこともあった。
その矢先に、ぎっくり腰になってしまったのだ。