捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
つい先刻、レオンによって紡ぎ出された、
『もうこのまま喰らい尽くしてしまいそうだ』
という言葉を体現でもするかのような荒々しい行為。
その様は、あたかも野生の狼が本能の赴くままに、獲物を捕らえて、鋭利な牙を穿ち、その血肉を喰らい尽くそうとするかのよう。
しかし私の中には恐怖心など微塵もなかった。
むしろ、このままレオンに喰らい尽くして欲しいとさえ思っていた。
そうすれば、レオンと離ればなれになることもない。
レオンの魂が尽きるその瞬間まで一緒にいられるのだ。
こんなにも幸せなことはない。
きっとレオンだって勘づいているはずだ。
私がひっそりとそう思っていることに。
そしてこんなにも想い合っていても、どうにもならないことがあるということにも。
だからこそ、『きっといい方法があるはずだよ』そう言いつつも、『今だけは』そう口にしたに違いない。
甘やかな痺れに侵されつつも、どうにも拭いきれない想いを持て余していると、レオンのシュンとした声音が思考に割り込んでくる。
「ノゾミ、大丈夫だった? 痛くない?」
私のことをオロオロとした様子で見おろしているレオンからは、さっき垣間見せた獣を思わせる獰猛さは消え去っており、シュンとした様は、大型犬を想起させた。
後ろで一つに結わえたアッシュグレーのゆるふわロングの髪の間から垂れたケモ耳が見えるような気さえしてくるほど、しょげてしまっている。
優しい王子様のようでいて、強引で押しが強かったりするレオンだけれど、あの誓い通り、あれからはキスをしてくることも触れてくることもなかった。
この様子では、このままなにもせずに夜を明かすことになりかねない。
明日の朝には薬草を届けて、その足で王都を出て、日が暮れる頃には、精霊の森のルーカスさんの家に帰り着くだろう。
そうしたらおそらく、レオンとこんな風にふたりきりで夜を過ごす機会なんて、あるとは思えなかった。
この機を逃したら次はない。
という思いに後押しされた私は羞恥なんてものともせず、レオンに返事を返し、懇願する。
「うん、平気だよ。そんなことより、早く私をレオンのものにして欲しいの。お願い」
対してレオンは、一瞬思案する素振りを見せたもののすぐに、
「……わかったよ。でも、また自分を抑えられないかもしれない」
私の願いを聞き入れようとしながらも、思い切れずにいるようで、不安げな声音を響かせる。
私はなんとかレオンのことを奮いだたせようと必死に声を紡ぎ出す。
「そんなこと心配しなくていいから。むしろ、その方が嬉しい。レオンのなにもかも全部が知りたいの」