捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
束の間の幸せ
ふわふわと心地よいぬくもりのなかで微睡んでいると、ふいに羽毛のような柔らかな感触に耳を擽られた。
微かに擽ったさを覚え、目を覚ました私がゆっくりと瞼をあげると、眼前に彫りの深いレオンの端正な顔が待ち構えていて、視線がかち合った、その瞬間。
「おはよう、ノゾミ。気分はどう?」
「////ーーッ!?」
ニッコリと微笑んだレオンから優しい声音が放たれて、寝起きに破壊力満点の極上の笑みを喰らってしまった私の心臓は、驚きすぎて、危うく生命の危機を迎えるところだった。
なんとかそれは回避できたものの、今度は覚醒した脳が昨夜のアレコレの一部始終を、ご丁寧にも色つきで再生しはじめたから堪らない。
瞬く間に茹で蛸状態になってしまった私は、とんでもない羞恥により、身悶えることしかできないでいる。
しばし、その様をキョトンとしたレオンが不思議そうに見遣っていたのだが、その理由に思い至ったようだ。
なにやら悪戯を思いついたように、口元に僅かに笑みを浮かべて、甘やかな声音とは裏腹な意地の悪い台詞を投下した。
「どうしたの? ノゾミ。もしかして、昨夜のことを思い返してでもいるのかい?」
私がこんなにも意識して、羞恥に塗れているというのに、レオンは普段とまったく変わらない。
むしろ、余裕のない私のことをわざと揶揄って、愉しんでいるように見える。
それが無性に悔しく思えてくる。
ムッとした私が頬をぷくっと膨らませて、抗議し、布団の中に逃げ込むと。
「……そ、そうよ。だってしょうがないでしょう! こんなこと初めてで、一体どんな顔していいのかもわかんないし、恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもないんだから。それを揶揄うなんて酷いッ!」
途端に、慌てふためいた様子で、レオンが布団に潜り込んだ私の背中を揺すりつつ、必死な声音で矢継ぎ早に謝罪してきた。
「の、ノゾミ。ごめんッ。別にノゾミを揶揄ってた訳じゃないんだ。ただ、ずっとこうなることを夢見てきたノゾミと、念願叶って、想いが通じ合えたことがどうしようもなく嬉しくて。少々調子に乗ってしまっただけだよ。本当にごめんね。ノゾミ」
「……」
それって自分の感情がコントロールできなかったってことだよね。それなら、私だって同じだ。レオンを好きだと自覚した瞬間からそうだった。
つまり、それだけ私のことを好きだってことだよね。
ーーあー、どうしよう。たったそれだけのことがメチャクチャ嬉しい。
が、しかし、未だ羞恥に塗れているため、真っ赤なままだ。なのですぐに布団からは出られない。
こんな有様では、きっとまたすぐに揶揄ってくるに決まってる。
そう思うと、出るに出られない。