捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
無反応で無言を貫いている私の様子に、ますます焦った様子のレオンがシュンとした声音で懇願してきたことで、私は大事なことに気づかされるのだった。
「けど、こんなことでノゾミとの時間を費やしたくはないんだ。だから、ねえ、ノゾミ。機嫌を直してくれないかい? なんだってするからお願いだよ。ノゾミ」
レオンが言ってきたように、私だって、こんなことでレオンとの時間を無駄にしたくはない。
昨夜は、レオンとの出会いが運命であるなら、いつかきっと叶う。そうは思っていたけれど、実際には、うまくいく確証なんてないのだ。
事実、命の恩人であるルーカスさんと小妖精のふたりの元を離れて、隣国のレオンのお嫁さんになるなんて、そんなことできるはずがない。
だったら、今こうしてレオンと一緒にいられる時間を大切に過ごしたいと思うのは当然だろう。
これから先、レオンが隣国に帰ってしまっても、この想い出を胸に生きていくためにも。
ーーこの旅の間は、レオンとの時間を思いっきり謳歌しよう。
そう心に決めて、布団からひょっこりと顔を覗かせてみる。
すると、シュンとしたレオンの蒼い瞳と視線がかち合って、見る間に、レオンの顔がぱあっと花が咲いたみたいに破顔した。
なんとも嬉しそうに満面に笑みを浮かべているレオンを見ていると、悔しいとか、恥ずかしいだとか……。そんな感情を抱いていたのが嘘だったかのように、晴れやかな気持ちになってくる。
けれどもレオンは、私の機嫌が直っているかの判断がつかないようで、どうしたものかと躊躇しているようだ。
その姿は、あたかもご主人様に『待て』を言いつけられた大型犬のように見えてしまう。
どうにも愛おしくて堪らなくなってしまった私は、レオンの広い胸へと飛び込んでいた。
「怒ってごめんなさい」
「どうしてノゾミが謝るの? 調子に乗ってしまった僕が悪かったのに」
それでもまだ、謝罪を繰り返すレオン。
これでは埒があかないと思い、仲直りのキスを提案したのだが……。
「もう、こんなことで時間を費やしたくないって、レオンが言ったんでしょう? あっ、じゃあこうしよう? 仲直りのキスをして、それで謝るのはもうなし」
どうやらレオンにはそういう発想はなかったようで、レオンはキョトンと首を傾げている。
「仲直りの……キス?」
「そう。ここに来る前にいた世界ではそうするものだったの。だからそうしよう?」
なのでそう言って説明したのに、どういうわけやら、急に難しい表情になってしまったレオンに、今度はこっちが首を傾げる羽目になった。