捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
「もしかして、以前言ってた僕に似た男ともしていたのかい?」
「ーーえ? それってもしかして」
ーー野々宮先輩に嫉妬してるってこと?
そうやって驚いている間もなく、またもや勘違いをしたレオンがムッとした顔で私のことをじとっとした眼差しで見据えてくる。
「やっぱりしてたのかい?」
いつもは甘やかで優しい声音も怒気を孕んでいるせいか、物凄く低くなっている。
たちまち胸がキュンと切なく疼いてしまう。
同時に、セックスどころか、初キスもレオンだったことを暴露しないとならない空気になってしまい。
真っ赤になりつつも、レオンに伝えないことには、この場がおさまりそうにないので、致し方なくカミングアウトすることとなったのだけれど。
「////……う、ううん。だって、なにもかもレオンが初めてだったんだもん」
「それは光栄だなぁ。だったら、数え切れないほどしないといけないねえ。愛おしいノゾミのことを怒らせてしまったのだから」
「へ? んっ、んん~~ッ!?」
私が言い終えた刹那。それはそれは嬉しそうな表情で弾んだ声を響かせたレオンは、ご主人様にご褒美をもらった大型犬のような喜びようだ。
尻尾があればきっとぶんぶん振り回していることだろう。
終いには、時折見せる意地悪な笑みを湛えて私のことを意味深な眼差しで見つめてくるなり、甘くて濃厚な蕩けるようなキスで私のことを骨抜きにしてしまうのだった。
兎にも角にも、互いの想いを確かめあった私とレオンは、こうして初めての幸せな朝を迎えたのである。
***
ちょうどその頃。
ここ、マッカローン王国の王城にある謁見の間では、なにやら不穏な動きがあった。
早朝から呼びつけられていた宰相の小柄ながらに恰幅のいい年配の男が、正面の雛壇に据えられた玉座でふんぞり返っている王太子になにやら報告をしているようだ。
そしてその傍らには、真っ黒なローブ姿の老婆が平伏している。
「精霊使い?」
「ええ、そうでございます。もうかれこれ二十年ほど前のことですが、国王陛下に仕えておりました、精霊使いのルーカス・レッコラという者にございます」
「ふぅん。で? どんな様子だ?」
「使いからの報せでは、小妖精の二人。それと旅人の若い男と暮らしているようでございます」
「旅人の若い男だと?」
「ははぁ。ですが、ご安心ください。情を交わした気配はないようでございます。それにすでに手筈は整えてございますゆえ」
「そうか。なら、その精霊使いを早急に呼びつけろ」
「ははぁ。ただちに別の使いの者を向かわせます」
老婆はその様子を静かに眺めていたが、やがて指示を受けた宰相とともに、王太子に臣下の礼をとり謁見の間をあとにした。
そんなことがあったことは勿論、自分達の身に暗い影が迫ろうとしていることなど知る由もなかった私とレオンは、予定通り、朝一で薬草を届け終えたその足で王都を出ようとしていたのだった。