捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
行く手を阻むもの

 王都を出てから、かれこれ数時間経った今でも、私の心の中では様々な感情がひしめき合いせめぎ合っていた。

 レオンのことを信じたい。そう思うのに、耳にした逃亡中の密入国者のことが思い浮かんで、鬱々とした感情を持て余している有様だ。

 そんな状態だったものだから、食欲もなく、言葉少なになっていたんだろうと思う。

 それがレオンの目には、体調が悪いように映ったらしい。

 しばらく続いていた林を抜けると村が見えてくる、というところで、下馬して茂みの近くの切り株に腰掛けての休憩中、レオンに案じられてしまうこととなった。

「ノゾミ、食欲もないようだったし。なんだか元気もないようだけど、どうしたの?」

 そう言って、私のことをとっても心配そうに気遣ってくれるレオン。

 その曇りなき綺麗に澄んだ蒼い瞳には、私だけが映されている。

 そこに映っている私の心の中は、きっとドロドロしたもので埋め尽くされていることだろう。

 こうしてレオンが優しく気遣ってくれているその裏には、何か邪なものがあるんじゃないかと、疑っている自分が頭の片隅にいて。

 それらが邪魔をしてレオンのことを信じ切ることができないでいる。

 ーーそれでも信じたい。

 そう思いながらも、もしもそうじゃなかったとしたら。きっと私はショックで立ち直れないだろう。

 無意識のうちに、その時の予防線を張ろうとしているのかもしれない。

 以前、この世界にくる前。大学デビューする前まで、他の家庭とは違っていることを知りつつも、どうせなにも変わらないんだったら、両親に反発なんかして波風を立てるより、ただ流されていれば、その方が楽だ。

 そう思っていた頃の自分に戻ってしまったようで、それが悲しかった。

 やっぱり私は、あの頃のままで何も変わってないんだ。変わることなんてできないんだ。

 レオンの冴え冴えとした綺麗な蒼い瞳に映る自分の姿をぼんやりと見つめつつ、いつしか物思いに耽ってしまっていた。そこに。

「ノゾミ、大丈夫?」

 レオンの声が割り込んできたことで我に返った私は、慌てて返事を返し、レオンにニッコリと微笑んでみせる。

「え? あぁ、うん。大丈夫。別にどうもしないから」

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