捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
予想外な再会と魔の手
ど、どうしてお婆さんがこんなところに?
それにさっきのアレはなんだったの?
思いがけない人物の登場により、余計に頭が混乱してくる。
昨日と同じ真っ黒なローブに身を包み、ファンタジーの本で知り得た知識によると、臣下の礼とやらをとっているお婆さんの姿に釘付け状態だ。
未だ茫然自失状態に陥っている私とは違い、依然狼の獣人姿のレオンは剣を構えていて、私のことを背で隠すように前に立ち、お婆さんのことをじっと見据えたままでいる。
まさに臨戦態勢だ。
そこへ垂れていた頭を上げたお婆さんの、この場にはそぐわないえらく感心しきりの声音が放たれた。
「さすがでございます。お嬢様。いやしかし、まさかこれほどの能力を秘めておられたとは、この私めにも予想できませんでした」
ーーど、どういうこと? 今のって、お婆さんがやったんじゃなかったの? ってことは、私? ええッ!? ウソ、本当に?
お婆さんの言葉を聞いた私の頭の中は、驚きを通り越してもはや大パニックだ。
私が脳内で、大騒ぎを繰り広げているなか、お婆さんの眼前に剣の切っ先を向けて身構えながら、レオンが再び地を這うような低音ボイスを響かせた。
「お前は昨日の。一体何用だ? 返答しだいではこの場で切り捨てる。心して答えろ!」
普段は、王子様然としていてとっても優しいレオンだけれど、狼の獣人姿で剣を構える様は、勇敢な騎士そのもので、並々ならぬ気迫に満ちている。
ーーたまにはこういう姿も凛々しくていいなぁ。
なんて、気づけば、仰天するのも忘れて、凜々しいレオンの姿にうっとり見蕩れてしまっていた。
そこに今度はお婆さんから、実に予想外な言葉が飛び出してきた。
「いや~。それにしても見違えました。ずいぶんとご立派になられましたねぇ。お父上であらせられる国王陛下も、さぞかしお心強いことでしょう。お久しゅうございます。クリストファー殿下」
ーーええ!? てことは、もしかしてレオンは王子様なの? クリストファー『殿下』って言ってたし。
驚きの連続で、もう何がどうなっているのかさっぱりわからなくなっていく。
ただただ瞠目したままで、お婆さんとレオンのことを交互に見遣ることしかできずにいる。
すると今度は、私ほどではないが、驚いた表情でお婆さんのことを見遣っていたレオンが、怪訝そうな表情に変わり、不遜な声音を放つ。
「フンッ、そんな戯言に耳を貸している暇はない。さっさと質問に答えろ。それとも今すぐ切り捨てられたいか?」