捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
そうしてじりじりとお婆さんの方へとにじり寄っていく。
レオンからは、今にも飛びかからんばかりの気迫と殺気が漂っている。
ーーあれ? 違ったの?
私が困惑していると、またまたお婆さんから、この場にそぐわない、にこやかな表情同様の朗らかな声音が繰り出された。
「覚えておられませんか? 昔、まだ殿下がよちよち歩きの頃に、何度かお会いしているのですが。あぁ、失礼致しました。私としたことが、自己紹介をすっかり忘れておりました。私は、十五年前まで、殿下のお父上であらせられる国王陛下レアンドル・パストゥール様に仕えておりました、魔法使いのソフィア・ロベールにございます」
ーーてことはやっぱり、レオンはモンターニャ国王陛下の息子。つまり正真正銘の王子様だったんだ。
真実かどうかを本人に確かめたくとも、相変わらず私のことを背でかばうようにして立ってくれているので、私からはレオンの顔を窺い知ることができない。
レオンの反応を待っていられず、いても立ってもいられなくなって、私は思わず声を放っていた。
「それってつまり、レオンがモンターニャ王国の王子様だってことだよね?」
すると真っ青な顔でこちらに振り返ってきたレオンが、私の両肩をがっしりと掴んできて。
「あっ、や、そのっ……違うんだ。ノゾミ。別に嘘をついていた訳じゃないんだ。ただ、言い出しにくかっただけでーーって、嘘をついていたことには違いないね。ごめん。
でも、信じて欲しい。マッカローン王国の王太子にいきなり異世界に召喚された挙げ句、追放されてしまったノゾミに、嫌悪されてしまうのが怖かっただけであって。神に誓ってもいい。騙すつもりはなかったんだ」
人間の姿に早変わりして必死な形相で、矢継ぎ早に、怒涛の弁明を繰り出してきた。
さっきまで構えていた剣も凛々しかった姿も、どこかに霧散してしまっている。
勿論、レオンの豹変ぶりには驚きはした。
けれども私は、不謹慎にも、自分のことで、レオンがこんなにも取り乱し、狼狽えてくれていることに感激し、胸をキュンキュンときめかせてしまっている。