捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
切なる祈り
昨日出会った乞食のお婆さん改め、潜入中の魔法使いーーソフィア・ローベルさんとともに、私とレオンは現在、ルーカスさんの家の裏手にある茂みの中に身を隠しているところだ。
いつもなら、山羊たちがその辺の草を食みのんびりと過ごしているはずなのだが……。
山羊たちは一所に集い、怯えたように互いに身体を擦り寄せ震え上がっていた。
その異様な光景を茂みの中から窺っている。
数分前、私たちが駆けつけた時には、既に山羊や家の周辺は、真っ黒なローブに身を包んだ大勢の男たちに取り囲まれていた。
どうして見つからずに済んだかというと、ソフィアさんの魔法のお陰である。
はじめは、五、六人の使いを出しルーカスさんを王城に呼びつける予定だったらしい。
が、聖女である私が不在だということで、だったら人質にして私たちを待ち受け、そのまま秘宝を探し出そうということになり、王太子も出張ったために、このような仰々しい有様となっているようだ。
なので今、家の中には、王太子と宰相、腕の立つ騎士らが立てこもっているらしい。
私たちが茂みの中から踏み込む機会を窺っていたその時。
ようやく日が暮れようとしかけた頃だというのに、家の煙突から闇夜が溶け出したかのように、茜色の明るい空に、ゆらゆらと黒い影が煙のように立ち上りはじめた。
すぐにそれが、精霊たちの放つ危険信号であるとわかった。
ーーもしかして、誰かの身に何かあったのだろうか?
そう思うと、こんな所でじっとしてなどいられなくなり、茂みから飛び出そうとした瞬間。レオンに凄い力で胸へと引き寄せられ阻まれてしまう。
「レオン、お願い。放してッ!」
「駄目だよノゾミ。僕が行くから君はここで待っていて」
「そんなのイヤッ! 私だって皆のこと助けたいの。だから行かせてッ!」
「気持ちはわかるよ。けど、ノゾミに何かあったら、僕は生きていけない。言ったよね? この命に代えても君を護ってみせると。行くのは僕だ。いいね? ノゾミ。心配しなくても、何かあった時にはノゾミの力を頼るから」
そうはいっても、その能力も自分の意思でどうこうできるものではない。
さっきはたまたまだっただけかもしれない。
それなのに、レオンだけを行かせられるわけがない。
レオンに何かあったら、生きていけないのは、私だって同じだ。