捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
「でも……」
なかなかレオンのことを送り出す決心がつかずにいる私に、ソフィアさんは言葉を重ねてくる。
「実は今回の一件は、隣国の旅人がクリストファー殿下だと判明した際に、お嬢様との結びつきをなんとか阻止しようと、あの我が儘王太子が焦ったゆえの、この現状です。それほどお嬢様の能力のことを恐れているのです。大丈夫ですよ。ピンチがくれば必ずあの能力が開花するはずですから。どうか信じてください」
レオンだけでなくソフィアさんにまでそう言われ、自分の能力に自信も確証も持てはしないものの、頷かざるを得なくなってしまう。
「……」
コクンと顎を引いた私のことを優しい眼差しで見つめつつ、レオンがいつもの優しい甘やかな声音で囁くかけてくる。
「じゃあ行ってくるね? ノゾミ」
私はすぐに、レオンの胸にぎゅっとしがみついて、声が震えそうになるのを堪えて声を紡ぎ出す。
「本当に気をつけてね。レオン」
「そんな泣きそうな顔されたら、いつまでも離れられなくなってしまうよ」
「だって、心配で」
「あ~、可愛いなぁ、ノゾミは」
お互いにどうにも離れ難くて、ぎゅっと抱きしめ合ったままでなかなか離れられずにいた。
ふたりの世界に浸ってしまい、すっかり存在を忘れてしまっていたソフィアさんの「コホンッ」という咳払いが私たちの意識に割り込んでくる。
「おふたりの邪魔などしたくはないのですが、日も暮れてまいりましたので、そろそろ」
その声を受けて、レオンが少々バツ悪そうに、ソフィアさんに向けて私のことを託す。
「うん。じゃあソフィア、ノゾミのことをよろしく頼むよ」
「お任せください」
ソフィアさんの返事を聞き入れたレオンに、今一度胸に抱き寄せられ、耳元で、甘い愛の言葉を囁かれた。
「愛してるよ、ノゾミ」
「////ーーあっ、ちょっ」
そのまま口づけられると思った私が慌ててレオンを止めようと思った瞬間、チュッと額に口づけられる。
てっきり口にされると思い込んでしまったことが、どうにも恥ずかしい。
たちまち真っ赤になって慄く私のことを満足げに見遣ったレオンは、ニッコリとした笑顔を残すと、パチンと指を鳴らし姿を消したのだった。
ーーどうかレオンが無事でありますように。
私は心の中で幾度も幾度もそう祈り続けた。