捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
「どうしたの? ノゾミ。何か考え事かい?」
ふいにクリスに問い掛けられて、私は隣のクリスの顔へと意識を向ける。
すると綺麗なサファイアブルーの瞳が待っていて、まだ慣れることのできない私の胸はトクンと高鳴ってしまう。
正式な夫婦になって初めての夜ーー初夜だと思うから余計だ。
けれども、これまでのことを思い返して色々思考を巡らせていたのも事実。
そのことを一度クリスともきちんと話しておきたいとも思っていた。
環境が全く異なる異世界で育ってきたお互いのことをより深く理解し合うために。
これからこの異世界で夫であるクリスとともに生きていくためにも。
「あっ、うん。これまでのことを振り返ってたの。色んなことがあったなあって」
「本当だね。まさか家族以外に心を閉ざしていた僕が、こうしてこんな風に、愛してやまない妻であるノゾミと一緒に過ごすことになるとは思ってもみなかったよ」
「うん、私も。でも、起こったことは全部、何かしらの意味があったのかなって思うの」
「そうだね。あの王太子には酷い目に遭わされたけど。異世界からきたノゾミと出会うことができた。そのことには感謝してる」
「……うん」
クリスにそう答えたものの、少々複雑な心境だった。
そんな私の心情をクリスは汲み取ってくれたようで。
「……でも、ノゾミにとっては、どうだったのかなって、時々思うことはあるよ。突然、異世界に召喚されて家族と離ればなれになったんだ。とても寂しかっただろうし、不安だったろうとも思う。今もね。それを少しでも和らげてあげられたらって思うよ」
「……」
優しいクリスの言葉を耳にした刹那、胸が熱くなって、それらが喉を伝って熱いものが込み上げてくる。
何かを口にすれば泣いてしまいそうで、ただ押し黙ることしかできずにいた。
そんな私のことを逞しい胸へと抱き寄せてくれたクリスの優しい甘やかな声音が密着した胸を通して伝わってきたことで。
「ノゾミ、そんな風に我慢しなくてもいいんだよ。寂しくなったら、いつでも僕の胸で泣けばいいんだよ。僕はノゾミとなんでも分かち合いたいんだ。僕たちは夫婦なんだからね」
「……っ、ぅっ」
なんとか必死に堪えていた涙はとうとう決壊してしまう。
私が一頻り泣いて気持ちが落ち着くまでの間、クリスは何も言わずずっと私の背中を優しく撫でてくれていた。