捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
王子様と幸せになるために
クリスのいうように、泣いたりしないように、私はずっと寂しいと思う感情を胸の奥底に押しやってきたのだろう。
そうすることで、思い出したくないモノに蓋をしてきたのかもしれない。
ある日突然、地震に巻き込まれたと思ったら、異世界に聖女として召喚された挙げ句に追放されたけれど、心優しいルーカスさんに救ってもらったお陰で、のんびり穏やかに暮らすことができた。
そのなかで、現実から目を背けてきたのだろう。
元いた世界とはまったく異なる異世界での暮らしに早く慣れることができたのは、間違いなく、物心ついた頃から厳しく育ててくれた両親のお陰だ。
両親は、私のことを心配する余り、過干渉になってしまってただけで、別に愛情がなかったわけではなかったのかもしれない。
学歴に拘っていたのだって、自分たちが努力して安定した職に就けたように、私たちにもそういう安定した道を歩んで欲しい。
少々やり方は間違っていたり、強引だったかもしれないけれど、きっとそういう思いからだったに違いない。
そのことを裏付けるかのように、遠い記憶の中には、両親に連れて行ってもらった両親の実家や様々な場所での楽しかった記憶が微かに残っている。
クリスというとても大切な人と出会い、恋に落ちて、こうして夫婦となったからだろうか。
よくはわからないが、異世界に来てやっと自分の居場所を見つけることができたからだと思う。
ここに来てからというもの、クリスの優しいご両親や兄妹との仲睦まじい様子を見ていると、幸せだった頃の両親との思い出が時折ふっと呼び起こされるようになった。
私がいなくなったあと、きっと両親は悲しんだに違いない。
もしかしたら今も悲しんでいるのかもしれない。
そう思うと、胸が苦しくなってくる。
できることなら、存在する場所は違っても、今こうして元気でいることを知らせたい。
ちゃんと自分の居場所を見つけて、大切な人とも出会って、今日結婚したこと。
今、とっても幸せだと。今まで育ててくれてありがとう。そう伝えたい。
無理だとは思いつつも、そう願ってしまう。
どんなに願ったところで絶対に叶わないとわかっていても。
なぜなら、元の世界に戻れたとしても、両親とわかりあえることなど、あり得ないからだ。
また自分も両親のようにならないとも限らない。とも思う。
決して昇華されることのない、なんともやるせない気持ちだけが、心の奥底に澱みのように募ってゆく。