捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
羞恥に顔を紅潮させて身悶える私のことを愉快そうに見下ろしつつ、クスクスと笑みを漏らすクリスのことが恨めしく思えてきた。
思わずムッとして上目遣いに睨みつけると、いつもの調子ですぐに謝ってくる。
「ノゾミは可愛いなぁ。すぐそうやって真っ赤になるから、つい意地悪を言ってしまうよ。ごめんね」
『可愛い』なんて言っても許してあげないんだからと、フェアリーの口調を真似て怒ってみる。
「クリスってば。もう、知らないッ!」
「そんなに怒らないでよ、ノゾミ。こんなことでノゾミとの大事な初夜を台無しにはしたくないんだ。本当にごめん」
けれどさっきまでの飄然とした態度から、急に甘やかな雰囲気を纏ったクリスに綺麗なサファイアブルーの瞳で熱っぽく見つめられれば、怒る気も削がれ、何も言えなくなってしまう。
これが計算だったとしたら、私には太刀打ちなんてできないだろう。なんて思いつつも、それも悪くはないなんてどこかで思ってしまっている。
「もう怒ってない」
すぐに許してクリスの胸にギュッと抱きついてしまう私は、すっかりクリスという底なしの沼にどっぷりと嵌まっているらしい。
「ありがとう、ノゾミ。愛してやまないノゾミのためなら、僕は何だってするよ。以前言ったように、この身を捧げても構わない。今も変わらずそう思っているよ。この世で一番ってくらい幸せにするつもりだからね」
「ありがとう。私もクリスのためなら何だってできる。この身を捧げてもいいって思ってる」
「同じ気持ちでいてくれて嬉しいよ。ありがとう、ノゾミ。愛してるよ」
「うん、私も。愛してる」
いつしかクリスに蕩けそうなほど甘やかな声音で愛を囁かれ、それに応えた私の愛の言葉に、うっとりとするほど綺麗な微笑を湛えたクリスに優しく包み込まれた腕の中で、どちらからともなく唇を寄せ合い口づけを交わしていた。
そんな私たちのことを麗らかな春の柔らかな風がそよそよと優しく撫でてゆく。
夜空を煌めく星たちが彩り、ふたりを取り巻く空気がよりいっそう甘くロマンチックな雰囲気を醸し出し、あたかもこれからの素敵な夜を演出してくれているかのよう。