雪と虎
春は緩やかに去っていく。
わたしはそんな我儘を三度言って、三度聞き入れてもらって、諦めた。
「最近、喧嘩してないの?」
「売ってくる奴がいない」
つまり買うこともない、と。
虎太朗は器用にフライパンを振るいながら答える。
「コタって、大学に友達とか居ないの?」
「いない」
「嘘」
「嘘じゃない」
「絶対隣に誰か女子いるでしょ」
パラパラ炒飯の中身がちょっと飛び出た。コンロの掃除は虎太朗にやらせる。
その動揺をわたしが見抜けないはずがない。あの冬の日から一緒に居るのだから。
「仏頂面なのに人たらしなの、良いなあ」