雪と虎
「あれ、水薙さんって電車じゃなかったっけ」
どう誤魔化そうか考えながら、無意識に瞼に触れる。それに気付いた森野くんが顔を覗き込んで来た。
「どうした? ぶつけた?」
高校まで、こんなに同級生と話したことが無かった。男女共に、だけれど男子は特に。
話したことも無かった男子も、こんなに優しかったのかな、とぼんやり考える。
「ううん、前縫ったとこが、ちょっと痛いなって」
「縫ったの?」
高校の人が誰もいなくて、家から少し遠い大学を選んだ。わたしのことを、知らない人たちのいるところへ行きたかった。