離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
行為の後、疲れ果てて眠った佳乃をベッドに残してキッチンに水を飲みに行くと、ダイニングテーブルに置きっぱなしだった離婚届が目に入る。
もう必要ないのだから捨てよう。そう思って手に取ったはいいが、俺はしばらく考えて、寝室のクローゼットに向かった。ハンガーポールの上段にある棚から、アンティークの蓋つき木製ボックスを下ろす。
ガシャン、と大きな音がしてしまい、思わずベッドで眠る佳乃の方を振り返る。彼女は完全に熟睡しているのか微動だにせず、ホッと胸を撫で下ろしてボックスの蓋を開けた。
中には赤いロンドンバスのおもちゃ、インド更紗のハンカチ、ゼリービーンズの空ボトル、フィンランドの木の枝、揚子江の河原で拾った石ころなど、ガラクタばかり入っている。子どもの頃から学生時代にかけて巡った国々で集めたものだ。
誰にも別れを惜しまれなくても、別れ自体になにも感じなくなっても。せめて自分だけはその国にいたことを覚えていようと、記念品のように大切にとってある。
そこに、この離婚届を追加しようと思い立った。