離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 俺は無表情で足を進め、寝室へ入る。そして、クローゼットを開けると大切な木箱から離婚届を取り出した。

 こんなことに使うつもりじゃなかったのに……ごめん、佳乃。

 寝室を出ると、佳乃はさっきと同じ場所にいた。しかし、俺が手にしている離婚届に気づくと、動揺したように瞳を揺らして俺を見る。

「真紘さん、それ……」
「佳乃が、遠距離での結婚生活は無理だって言うなら、仕方がないと思う」

 自分の口から発しているのに、その声はどこか遠くに聞こえた。

「……どうして?」

 尋ねる佳乃の声は震え、大きな瞳になみなみと涙が浮かんでいた。

「だって、出向の間どうしたって俺はそばにいられないんだ。佳乃には仕事もあるから、ついてきてくれとも言えない」

 胸が痛い。俺はなにか間違えている気がする。そう思うのに、佳乃を突き放すようなことばかり言ってしまう。

「言ってくれれば、ついて行きます……! ちょうど専務に失礼なことをして会社に居づらかったですし、秘書の仕事だってそのうちロボットがなんとかします! それより、真紘さんと離れる方が私にとってはつらいんです!」

 叫ぶように言って俺に詰め寄ってきた佳乃が、拳で胸をドンドン叩いた。バランスを崩した俺は背中に壁をぶつけ、その拍子に、離婚届が手から離れてひらりと床に落ちる。

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