離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
どきりとしつつも、雨音さんに気づかれないように、平静を装う。
《佳乃ちゃん、専務室に連れていかれたあの日、セクハラの件で彼に抗議してくれたんですってね。ありがとう》
「あっ、いえ……。でも、どうしてそれを?」
もしかして、もう会社全体で私の問題行動が共有されているんだろうか。
自分のしでかしたこととはいえ、次に出社する時気が重い。
《昨夜、専務から謝罪の電話があったの。彼、『柳澤に殴られて、ようやく目が覚めた』って言っていたけど……佳乃ちゃん、本当に殴ったの?》
雨音さんの言葉に、ぎょっとした。やっぱり、専務はいろんな人に私の暴挙を触れ回っているんだ。
後悔と不安が押し寄せ、ウエストに回された真紘さんの腕を思わずギュッと掴む。
「殴ったというか、平手打ちはしました……。専務を怒らせた私は、きっとクビですよね?」
もしそうなら、心おきなく真紘さんについていける。クビになりたいわけじゃないけれど、心のよりどころが欲しくてついそんな風に思っていたら――。