離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
《ううん、その逆。専務は佳乃ちゃんのことが気に入ったそうなの。だから、私じゃなくあなたを秘書にしたいって。そうなったら私が常務付きになるんだけど……佳乃ちゃんは大丈夫?》
「えっ? 私が専務の秘書?」
思わず口に出すと、真紘さんも反応して私の顔を覗き込んだ。専務の悪い噂は彼も知っているから、気になるフレーズだったのかもしれない。
《ええ。嫌なら無理強いはしないそうだけれど、一応本人の意思を確認してほしいって言われているの。急なことだけど、佳乃ちゃんの気持ちはどう?》
私はスマホを持ったまま、しばらく考え込む。どうして専務が私を気に入ったのかわからないが、本当に心を入れ替えてくれたなら、断る理由はない。
自分を殴った私に嫌がらせがしたい可能性もなくはないけれど……。
雨音さんに謝罪するという行動自体、今までの彼なら考えられないし、これまでのひねくれた行動はロボット開発に対する熱意ゆえだとも知った。
専務の再出発をサポートできるなら、秘書としてこれ以上やりがいのある仕事はないかも。
「雨音さん、やります、私」
顔を上げ、ハッキリ宣言すると、真紘さんがふっと笑ったのが聞こえた。それから、〝えらいぞ〟とでも言うように、頭をぐりぐり撫でられる。