離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
《そう、よかった。じゃあ専務に伝えておくわね》
「よろしくお願いします」
《ええ。おやすみなさい》
雨音さんとの通話を終え、ふう、と息を吐く。
来月から、専務の秘書か……。常務のもとでしていた仕事と基本的には変わらないのだろうけど、改めて頑張らないと。
「よかったね、佳乃」
自分と対話していると、真紘さんが耳元で呟いた。
そこで初めてハッとする。クビを免れた上専務の秘書になるということは、彼と一緒にギリシャに旅立つ選択肢を捨てたも同然だ。
「よく……は、ないですけど」
「でも、佳乃の目はやる気に満ちてるよ。佳乃、受付にしろ秘書にしろ、天馬モーターズでの仕事、好きでしょ?」
真紘さんにそっと問いかけられ、頷くしかなかった。ほかの会社や仕事は経験したことがないけれど、確かにそう。私は今の仕事が好きなのだ。
「受付の仕事をテンマくんってロボットに奪われてショック受けたり、専務の言動に本気で怒ったり。それって、適当に仕事してる人にはできないことだよ。専務もそれがわかったから、佳乃を切らなかったんだ。俺は、佳乃からその大切な仕事を奪いたくない」
「真紘さん……」